キノの旅 13

推しも推されずいまなお電撃文庫を代表するシリーズ。
刊行ペースは遅く、長寿の割に巻数はいまだ13巻であるが、その分衰えぬクオリティはさすがの一言。
今回は全5本の短編を収録(カラページ・プロローグ・エピローグを含まず)。


13巻です。
2004年の8巻以降、5年連続して1年置きに新刊が出てきていたりします。
次も無事2010年10月にリリースされるでしょうか。


という話はさておき、今回の内容について。
ここは「今回も」というべきところかも知れませんが、あえて今回はとてもシニカルです、とまずはご紹介。
風刺やアンチテーゼとも取れる内容は『キノの旅』らしさの代名詞ですね。
ですが、その反面感動的なエピソードは影を潜めています。


加えて、あまり必要性に駆られていない(キノの立場としてはやらざるを得ないので必要性は十分ですが)人死に、というより殺人が多いですね。
作中でのとある国とは対照的に一応現代では読書の自由が保証されていますが、まあ、あまり情緒の安定していない年端の行かない子供が読むにはふさわしくないと思われる内容もちらほら。


以下、大雑把に各話紹介(ネタバレは回避しています)。
1:昔の話
師匠と青年の話です。
悪政と革命、そしてその後を描いた短いお話。
相変わらず師匠が金のために残忍さを発揮。


2:家族の国
本編中では今回一番短いお話。
「家族」と「血の繋がり」についての問題提起のような内容です。


3:違法な国
今回もっとも時代を反映した時節的な内容でしょうか。
2と同様かなり短いですが、ある政治家さんへの皮肉とも取れるようなお話。


4:旅人の国
シズ達の視点で描かれるお話。
個人的に13巻では一番のお気に入り。
しんみりくる物悲しさがあります。


5:必要な国
1と並び過激な内容となっています。
ネタバレになりますので明かせませんが、現代でも国内外を問わず昔から今に至るまで常に議題となっている“ある制度”をテーマにしたお話です。
久しぶりにキノがパースエイダー片手に大立ち回り。


その他、巻頭にはいつものカラー口絵つきイラストノベル。
本編の頭と尻尾には前後編を逆にしたプロローグ・エピローグabを。
更にスペシャルとして、PS2のゲームに付属していたブックレットから作中では絶対にあり得ない顔合わせが国々を巡る遊び心満載のくだらない(悪い意味ではない)ショートエピソードも収録されています。


また、今回はあとがきと称して20頁を越える著者へのQ&Aが載っています。
定番の「好きな食べ物」に始まり、ペンネームの由来や印象に残っている作品ベスト5(本・映画・ゲーム・アニメ・漫画それぞれ)などから執筆活動に至る質問まで、著者の人となりを知ることのできる作りでした。
今回のこのコーナーに関しては、始めはあまり興味なく読み始めたのですが、読んでみるとなかなか面白い。
作家時雨沢恵一に興味がある人なら尚の事と思われます。
一読の価値あり。