老ヴォールの惑星

  • 老ヴォールの“ここにワクワク :テーオの確信めいた一言「(前略)この世界を変えることができる」(50頁)

  ここに至るまでの展開と相まって興奮も頂点に…。


4作品からなる小川さん初の作品集。「SFが読みたい!2006年版」のベストSF受賞作でもある。
作品には50頁に満たないものから100頁を越えるものがあり、それぞれが毛色の違うものとなっている。

政治犯への刑罰として「脱出の叶わない迷宮に放り込む」罰が設けられている世界。
些細な事でそこへ投獄ならぬ投宮されることになった一人の男を主役とした物語。

宇宙生物学の要素も多分に含んだ、地球とは別の惑星に生息する異生物たちが主役の物語。
主体も彼らであり、人間側からの観測や干渉・コンタクトなどを旨とする作品ではない。

  • 幸せになる箱庭:哲学的

地球の存亡を賭け、異星体との交渉に向かった一団が主役となる物語。
ひとことで言えば「醒めない夢は夢といえるのか」これがテーマと言える作品。

  • 漂った男(書き下ろし作品):人間学

陸地がなく総表面が全て海の惑星に落下し、遭難した男の物語。
物理的な危機が一切なくとも人は容易に窮地に立たされてしまう、そう教えられる一作。


何といっても頭と尻尾の二作のインパクトが強烈。
「迷宮」は同著者の『復活の地』のセイオ(名前も似てるなぁ)を彷彿とさせるような展開に興奮。
ただ、前半が最も面白く、あとの方になるにつれ話がどうでも良くなり、事務的になってくる点まで『復活の地』に似なくていいのに…とは思ったが。
全体的な完成度でいえば「漂った男」が一番良かったなー。
結構残酷な終わり方をするのがまた何とも現実的で、優しさのなさが痛烈。
何が優しくないって中尉の死は最後の鍵だから仕方ないにしても、せめて奥さんだけは…。
あれじゃあほとんど寝取られたのと同じじゃないか。辛すぎる。(ネタバレなのでステルス)
残る二作はそれほど面白いとは思わず。
表題にもなっている「老ヴォールの惑星」にも特に面白みは感じられなかった。
研究熱心な小川さんの良くもあり悪くもある「専門的になりすぎる」面が最も全面に出てたのが老ヴォールだったんじゃないかな。
それに専門的でないにしても、40億平方kmや5万日・200億kwと書かれてもスケールがでかすぎて想像が及ばなくて…。
また、唯一主役が人間以外の作品であり、その主役の生物が自己の生存には全く執着せず、命の扱いが軽いせいで感情移入が全くできなかったこともつまらないと思う要因かな。
もっと動物的なイキモノだったら良かったんだけど。
まあ、バリエーション豊かなだけに全部が最高に面白いって思える人は多くはないだろうし、何より「老ヴォール」に至っては雑誌掲載時の評価は高く、傑作扱いだっただけに単なる好みの問題だとは思う。