晴れた空にくじら 3

商船から軍鯨となり、防空鯨隊へ。
そして、防空鯨隊から連合鯨隊へ。
所属が変わるたび、戦火の只中たる前線へと近づいていく峰越。
それ即ち、クニの仇敵である襲撃鯱へと近づくことでもあり・・・。

終わりと始まり、堂々の完結巻。


さて、日本軍は旅順攻略へ向けてついに重い腰を上げる。
残存兵力のすべてを当てての一大決戦。
連合鯨隊へと配置換えとなった雪平らもこの作戦に参加することに。
そして戦場で三度かの襲撃鯱と巡り合い、今度こそ決着の時を迎える。


という流れの最終巻です。
あくまでも描かれるのは雪平とクニの物語であって、日露戦争をモデルとした戦争の情勢や戦地の状況などは舞台装置のひとつ。
それらに浮気することなく二人の物語を描き切る構成が何とも良い感じ。
槍次と夏哉の二人に関しても、これまで通りカップル成立を匂わせる事こそありましたが、これもやはり過程や顛末にはこれと言った言及はなくスルー。
本作は雪平とクニが出会い、雪平がクニの復讐を手伝うことにして始まった物語。
それ故にそれ以外のことは比較的どうでもいいわけで、徹頭徹尾そこだけに的を絞られていたこの作品に対する満足度は高い。
美味しいとこどりをしすぎた結果、あれもこれも書こうとして蛇足感たっぷり、と言ったこの所のライトノベルに多く見られる悪い例とは対照的です。


また、浮船という独特な素材を元に描かれた雪平の峰越操縦術においても今回は面白い。
1巻でそのアイデアと設定を生かした展開に興をそそられた反面、2巻ではやや物足りなさを覚えたのですが、3巻でまた興奮。
1・2巻での浮船戦に比べれば遥かに少ないページ数で決着が着きましたが、その分一発で勝負が決した観があり、密度は反比例的に高まっています。


加えて、操縦士として魅せた操縦テクとはまた別に、雪平がしっかりとした男であり、好感が持てたのも良い点。
これまでも何となくぼんやりしていて、どことなく頼りなさげな彼でしたが、締める所はきちんと締め、決めるところできっちり決めました。
恐らく彼がそうなるのには、再会した鴨田社長の言葉が一躍買っているものと思われますが、いずれにしても多くの男性主人公が女性にリードされてばかりのヘタレになっているいま、そうではない雪平もこの作品の魅力のひとつと言えます。


というわけで、若干終わってしまうのが名残惜しいのですが、3巻で完結してこその内容とも思える本作。
1巻完結ではなくシリーズものだけど超長編でもないほど良い長さ。
しかも打ち切りなどによる無理のある終了ではなく、当初予定からのペース配分によって円満に過不足なく幕引きしたと思われる。
そういった類の完結作品としてオススメです。