マルドゥック・ヴェロシティ 2

マルドゥック・ヴェロシティ 2 (ハヤカワ文庫JA)

マルドゥック・ヴェロシティ 2 (ハヤカワ文庫JA)


-ヴェロシティ2巻の“ココにグッときた :「本当に子供がやどるまで、あなたにそばにいて欲しかったからかしらね」(250頁)
寄せられる親愛の情。


途方もなく深い藪の中を探るかのごとく活動を続ける09メンバー。
探るほどに、追うほどに新たな事実、背景の広さが伺えるようで…。
ひとつの都市の政財界・法曹界にまで広がる闇を明かし、晴らすことはできるのか。

都市の絡み合うの権益や体制そのものを覆すほどにまで事態が発展してる為、話のスケールがでかい。
登場人物も半端なく多く、読み手の力まで試されているかのような内容量に圧巻。
いやーもうホントね、コレどうにもならんね、濃すぎ(笑)。
全貌の解明に必要な証人・証拠を巡る暴力的な奪い合いがあるかと思えば、様々法執行機関も介入した極めて穏便な大人の取引や各機関が有する権限の及ぶ範囲の境界線上での駆け引きもあり。
「この肉、噛んだらどんだけ肉汁溢れてくるんだよ」とでも言うような濃厚さにもはや不満なしっすねー。
まあ、それでも半ば粗探しで欠点を探すならグロテスクを通り越し、形容しようもないほどに残酷無残な拷問痕の描写などがヘヴィすぎる点かな。
スナッフムービー?っていうのはきっとこんなのなんだろう、と背中に薄ら寒いものを感じるほどにどぎつい内容があるから、この類がとりわけ苦手な人はこの部分を契機に作品そのものに強い抵抗を覚えても無理はないくらい。
具体的に言うのも憚られるけど、四肢を落とし顔と胴体だけにした人間を死なせず生かしたまま更に拷問に及ぶ──といったものが一部含まれます。
映画などの映像作品なら間違いなくR-18指定されるような、って思ってもらえれば…。
尚、ラストがぶった切りで次巻に引き継がれるのが復活してる。
でも発売間隔短いからこれを書いてる今、既に3巻出てるわけだし問題ないけどね。


さて、以下はまた『スクランブル』を踏まえた上でいくつか。
以前、スクランブルを映画『レオン』と評しましたが、それに対して喩えるならヴェロシティはさしずめ『L.A.コンフィデンシャル』や『アンタッチャブル』などのマフィア・ギャング系映画。
当人たちにとっては切実な問題でも傍目には所詮瑣末な出来事でしかない『レオン』の舞台に比べ、後者はやはり同様に内部から腐敗した都市が舞台という規模の違いですね。
無論規模がそのまま良し悪しに繋がるわけでもないけど、こと前作と今作の対比でいうなら規模がそのままおもしろさを表してるかと。
また、前作では事あるごとに邪魔に入る嫌な相手でしかなかったボイルドが今回は非常に親しみの持てるキャラクターに。
やはり主役に据えられると描かれてくるものも詳細になるからそれだけ感情移入し易いってのもあるけど、それにしてはバロットはいまいちに感じたが、ボイルドではそうはならなかった。
ただまあ、事の帰結を知っているだけに09メンバーの努力が無駄になると判っていることからくる儚さ或いは虚しさがより感情移入の助けとなってるのかも(ラストに関わることなので念のためステルス)。


もしまだスクランブルを読んでおらず、これから両方とも読んでみようと考えている人が居ましたら、読む順番はヴェロシティ→スクランブル→ヴェロシティをお奨めします。
ストーリーのラストの部分とスクランブルのボイルドを知らずに読むのと、それを知ってからヴェロシティを読むのとでは大分印象が違うはずですので。
俺は既に知っている状態からでしかこの作品を楽しめないのがちょっと悔やまれるくらいですね。