マルドゥック・ヴェロシティ 3

マルドゥック・ヴェロシティ 3 (ハヤカワ文庫JA)

マルドゥック・ヴェロシティ 3 (ハヤカワ文庫JA)




グラウンドゼロ、これは虚無への物語。
この腐った舞台の黒幕を雲を掴むような心地で探し続けた。
だが、ようやく掴んだ真実が示したものは深き暗黒、血の怨讐。
もっと早くに気づいていれば、違ったのだろうか。
しかし、既に歯車はどこかで狂った。
黒幕が分かった所で、もう戻ってくるものはない。
只ただ坂を転げ落ちるしかなかった。
何も成せず何も守れなかった、出来ることは転がり落ちるその手で相手を道連れにすることだけだった。
後には何も…何も残らなかった。
唯一、穢れを知らぬ子を遺せたこと以外には…。

一流の作品は必ずしも穏かな結末、賑やかなハッピーエンドでなければならないわけではない。
そう言わんばかりの凄烈なる鬱展開、そしてバッドエンド。
(以下、長々とネタバレ)
この巻は兎に角仲間が死に続けます。
敵に囚われ、拷問の末殺される指導者。
敵に討たれ、死んでいく09メンバー─仲間─。
被害の拡大を防ぐ為、自ら死を選ぶ仲間。
裏切者に、殺される仲間。
飼い主を…裏切者を殺した責を負って法に殺される仲間。
ボイルドの判断の誤りによって、眼前で唐突に敵でもないただの市民に殺される仲間。
そしてナタリア、サラノイ教授、シザース、ホワイト刑事までも…。
その果てに残された2名と1匹は、決別…。
戦いの中にあってただひとり生き残り、そして独りになったボイルド。
強かったから、優れていたから生存者足り得たのでなく、ただ「生き残る才能─悪運─だけは他の誰より秀でていた」だけだった。
彼もクルツの言う「情けない男たち」の一人であることに変わりはなかったのに…。

まあ、前作スクランブルを既読であればバッドエンドなことは承知済みですよね。
ならばそこに至るまでの過程と、前作でボイルドが「オクトーバー社の手駒としての役割を執拗に果たそうとした理由」こそが本作の中心軸になるのかな。
刻々と描かれるその過程を体感して下さい。


また、スクランブルを未読の人は単純に過程→結末を楽しんで下さい。
時間軸ではこちらが先なので、基本的に前作を把握しておく必要性はないですし、ひとつの作品としても完結してますから違和感や不完全燃焼な感じはしないと思います。
むしろ、本作の事後であるだけにスクランブルの方は本作で得た情報の影響で見えてくるものが変わるので、スクランブルを読む場合にこそ先に本作を把握しておく必要性が出てくる程です。
何やらややこしいですが、発売はスクランブル→ヴェロシティ、話の流れはヴェロシティ→スクランブル。
てことは、やっぱり別にスクランブルを先に読んでおかなきゃいけないわけじゃないよね。
ちなみにヴェロシティ全三冊は、99パートからなる本編とプロローグ/エピローグで構成されており、prologue100→99→98→…→1→epilogue0となっています。
プロローグに割り振られた100の数字も含めてパート番号が降順になっており、最後にエピローグでゼロ(無)に帰すって演出です。
これも踏まえてストーリー上の時系列をよりハッキリさせると、ヴェロシティ1巻の99→3巻の1→スクランブル1〜3巻→ヴェロシティprologue100→epilogue0となります。


尚、賛否両論の文体に関しては、溢れんばかりの情報・事態の推移を文字量を膨らませずに、頁を必要以上に分厚くせずに、明快簡潔に伝える上でこの上ない手法だったと思います。
これを普通の手法で延々と書かれていたら逆にテキストの物量にうんざりして食傷し、とても3冊も読めなかったかも。
それにしても、3冊通してすべて黒塗りのイラストで装丁された表紙が暗示的だなぁ。