キノの旅 11

キノの旅〈11〉the Beautiful World (電撃文庫)

キノの旅〈11〉the Beautiful World (電撃文庫)

  • ココにしんみり :師匠「あの国は国名が昔と変わっています。入り口にある石碑の名前を一度読んでから入るといいでしょう。」(98頁)

忘れてなどいはしなかった・・・。


キノの旅一年ぶりの新刊は原点に立ち返っての短編集。
10巻の『歌姫のいる国』のような長編はありません。
一番長いものでもおよそ70ページですね。
でもってシズ組と師匠組の回もひとつずつと控えめで、まさに「キノの」旅という本来の印象が強い巻となっています。
(シズの回に至ってはわずか6ページ)


内容も色々です。
とても短い出オチのような話から短編ながらもある程度段階を踏んで構成されている話があり、生来の皮肉めいた話や社会風刺的なものもあれば、ちょっと愉快な話もあり、逆に不快…というと語弊がありますが、ダーティな話やバッドエンドのエピソードも充実。
長くキノの旅を読んできた人はとても「らしい」巻だったなぁと思えるのではないでしょうか。
個人的にもかなり満足しています。


また、各エピソードのラスト数ページでもたらされる衝撃のキレも強さが戻っていて良いです。
『アジン(略)の国』はその最たる例と言えます。
そして更に、これも久しぶりの(気がするだけかも知れません)キノが戦うエピソードもあり。
毎回血生臭い殺し合いをするキノも嫌ですが、たまに読みたくなるのが人の常。
一人旅であり仲間というものが居ないキノは必然的にいつも1対多数の状況を強いられることが多く、今回もほぼその条件から外れないシチュエーション。
知略と“生き残る力”に長けたキノがその不利を戦い方の工夫で乗り切る過程がやはり面白い。


ヒット作ほど刊行ペースがハイペースになりマンネリ化を促進しがちな昨今の電撃の流れと相反するキノですが、1年待っただけの甲斐はあったと思います。
10巻で長編は満喫したし長編はもういいや、という人にもお薦め。


ちなみに、もはやあとがきではない「あとがき」では制作裏話が展開されています。
僕はガンオタじゃないのでちっとも気づけなかったのですが、パースエイダーもほとんどが実在する銃器をモデルにしているそうです。
このタイトルに決まる前の候補も明かされてます(いまので良かった…というのには強く同意)。
また、そこでは前回の10巻でちょっと話題になったエリアスの誤植「エアリスまちがえ」についても触れられています。
まあ、人名を誤植っちゃまずいですよね。
地の文や科白ももちろん誤植しないに越したことはありませんが、人名固有名詞は特にダメだと思います。
と言ってる側から今度はエルメスが脱字でエルメとなっている箇所が…(())。
キノの旅』の誤植は恒例すぎてもうダメだ(笑)。


それから、時雨沢さんのあとがきの後にイラストの黒星紅白さんも1ページだけあとがきを書いています。
そこにキノの顔の絵の変遷が載っているんですが、年を追うごとに人相悪くなっているのにが笑えます。
確かにキノのことを知れば知るほど性悪に見えてこなくもないですが(笑)。


さて、12巻も1年後ならば来年中には出るでしょうか。
これからは年いちくらいのペースというのも悪くないかも知れません。