輪環の魔導師─闇語りのアルカイン

輪環の魔導師―闇語りのアルカイン (電撃文庫)

輪環の魔導師―闇語りのアルカイン (電撃文庫)

  • ココがシビれる :オルドバ候「──貴兄は貴族と王族との関係について、少々誤解をされているようだ。王が王たる資質を失った場合──貴族は貴族として、それを諫める役を負う。唯々諾々と指示に従うものではない。同盟者ではあるが、我らは部下ではないのだ。どんなに零落しようと、どんなに時代が進もうと、その誇りを忘れた者に、貴族たる資格はない。覚えておけ、若造──!」(219頁)

吼えた!親父かっけーーー!
おっさんのカッコイイ作品はおもしろい、これ宇宙の法則。


一大巨編『空ノ鐘の響く惑星で』の著者、渡瀬さんの新シリーズ。
当初は買う予定はなかったのですが、店頭でみかけて買ってしまいました。
ずっと以前から空ノ鐘〜は興味があったものの、その頃既に8冊くらい出ていて敬遠。
結局12+1冊もリリースされてしまいなかなか手が出せないままで居た所へ新シリーズが。
なれば、こっちから先に入ってみてそれで大層気に入ったら思い切ってあちらも・・・と思ったわけです。
というどうでもいい前置きはさておき、本作について。


魔法の使える人間など、この世には存在しない──
だからこそ人は魔導具を作り、魔導具を使う。
そして、より優れた魔導具を求める…。


平和な片田舎のミストハウンドに暮らす見習い薬師セロ。
亡き祖父は優秀な魔導具の職人であったが、彼自身は何の魔導具も作れないどころか使うことすらできない。
それこそ、この世に生ある万人が使うことのできる火起こしの道具すらも…。
そんな彼の住む街にある日、ハルムバックなる男が率いる王立魔導騎士団がやってきた。
ハルムバックは祖父の遺品に興味を示し、この地には領主の魔導具研究に興味があり訪れたというが…。



はい、てなわけで設定・世界観・物語の起こり、全てが正統派ファンタジーの雰囲気を纏った『輪環の魔導師』、ここに始まれり。
いやぁ、本当に何から何まで「RPGとかによくありそう」な感じで、ファミコン普及以後の世代にとっては非常に馴染み易い作りの物語です。
それだけに悪く言えば凡庸で尖ったものがないとも評せるのですが、奇抜さの追求が常に正しい選択とも限りませんからこの手堅さは安心感があって良いと思います。
まあ、それゆえ現時点ではまだ「この作品にしかない個性」というか「他にはない格別の魅力」はあまりなく、強く惹きつけられる所がある!とまでは言えませんけれど。
いずれにしても、僕はおもしろいと思いましたし、何だかんだ言っても飲み込まれたように中盤以降を一気に読みました。
はなからシリーズとしての刊行が決まっている作品なので必ず出てくる次巻以降を待つ価値はあります。


1巻は街を旅立つ所までですが、今後の旅の主要な面子は表紙の三人になります。
セロ:戦闘力のない主人公(笑) 何故か“一切の魔導具が使えない”(=使おうとするとみんな壊してしまう)
 優秀な魔導具職人の孫
フィノ:ミストハウンドの領主オルドバの養女 8歳の頃よりセロと親交があり、年の近い弟のように接している
アルカイン:喋る猫(本人曰く「元はもちろん人だったよ、呪いさ」)(過剰すぎる気もしますが一応ネタバレ回避) 陽気で紳士的な面を持つが、底の知れない人 とある偉大な人物の弟子 こと戦いの事になると彼が主役


セロが何故魔導具を一切使えないのか。すぐに察しのつくことではありますが、重要なポイントですね。
そしてセロの祖父、彼も実は・・・といった具合に鍵となる秘密があります。
さらにフィノ。彼女も彼女で深い所にどこか常の人のそれとは違うモノを秘めているようですが…。
ある人物から授かった眼が原因?
でもってアルカイン。
急に現れ、成行からセロ達に助力をくれることになった人なだけに秘密の多い人。
二つ名を持つほどに優れた魔導具の使い手。


物語のキーは─セロの祖父、セロの特異性、伝承の中だけの実在しないとされる魔導具“還流の輪環”、そしてそれを狙う“魔族”なる者達の活動─といったところ。
還流の輪環については冒頭、一番最初の2頁で画面を下から上に流れるゲームのプロローグみたいな感じで説明あり。
また、本編中でもより詳細なことについて、憶測ながら言及があります。
で、ぶっちゃけ個人的には大仰な言い伝えや冒頭ページの煽りの割にはなんかショボくね?って感じのアイテムです。
とはいえまだ1巻ですし未知数の部分が多いので、さすがにこれからだろうとも期待。


前作が主に3ヶ月に1冊のペースで刊行されており、執筆ペースの早い方のようなので2巻待ちの心配はなし。
1月には出ないようですし、恐らく2月に出されるんじゃないかと見ています。