MAMA

MAMA (電撃文庫)

MAMA (電撃文庫)

  • 今回の名場面

「ああら、そんなことを聞くのね、馬鹿馬鹿しい。ホントに馬鹿馬鹿しい、やってらんないわ!」
から
「ねぇトト。あたしの独り相撲とわかっていたけれどね。あたしは、あたしなりに。──貴方のお友達でいたつもりなのよ。」
までの王女の語り(171頁)


話題を呼んだデビュー作『ミミズクと夜の王』以来となる著者の新作。
もうあれから一年と知り万感の思いと共に読み始め、そしてやはり前作同様読後に抱くのも万感の思いという奥深い作品。
「久しぶり」と断じれるほど電撃文庫の何を知っているわけでもありませんが、便宜上「電撃に久しぶりの本格派が現れた」と言わせて頂こうと思います。
この著者に外れなし!です。


前作を読んだ方はご記憶のことかと思いますが、本作も人と人ならざる者─魔物─の愛を描いた物語。
ひとつ違う点としては今回は時間の枠がとても広いです。
人喰いの魔物と誓いを交わした少女の数十年に及ぶ半生が綴られています。
以下、その概要です。


魔術師の血筋に生まれ、魔術師を育む学院に居ながらもまったく魔術の才なき落ちこぼれの少女トト。
そんな彼女が出会ったのが数百年も昔に封じられた強き強き魔物。
彼女は決して強い魔力を欲したわけではないが、彼女は何よりもこれから己が身に降りかからんと迫る孤独を懼れ、孤独な時を静かに行き続けた魔物に心を寄せ、名を与え、そしてある誓いを果たしてしまう。
「トトが貴方のママになってあげる」と…。
こうして愛にも似た二人の依存の生涯が始まり、そして二十年の後に、気付かないのではなく気付こうとしてこなかった真実
─本当は自分は独りなどではなかった。彼だけが唯一彼女に許された人ではなかった─
を認め、二人は別れと新たな始まりを迎える…。



ちょっと概念的で漠然としすぎな書き方になりましたが、要するに、本当は開けているのに閉じた世界を二人で生きる少女と魔物のおはなし、ということです。


尚、本作は雑誌掲載済みの表題作『MAMA』の他に文庫化にあたって書き下ろしの後日談的物語『AND』も収録されています。
文章量としては6:4といったところであり、主役こそ異なれど『AND』も「時を共に生きる二人の絆」というコンセプトは変わらぬ一作となっています。
どちらも激しさのない文章や流れで形作られた物語ではありますが、訥々と紡がれるものには心に染み入ってくるものがあるかと思います。
一滴一滴抽出されたドリップコーヒーのようなじんわり広がる深い趣きをぜひご堪能下さい。