狼と香辛料 8 対立の町・上

初の上下巻。


前回(6巻)の件で新たにコルという少年を旅の共に加え、三人旅となったロレンスたち。
エーブと狼の骨の話を追って彼女のホームでもあるケルーベの町へと足を向ける。
だがその町は南北の対立が著しい曰くつきの町であり、もはやトラブル体質と言っても良いロレンスは…。



短編集の7巻を挟んだので実質6巻の続きとなる今回は、これまでの中で一番おもしろい&おもしろくなりそうな気がしています。
あらすじに関してはあまりつっこんで書くわけにはいかない流れになっているので大雑把にだけ。
ケルーベは今の町の有力者の前の世代から大河を挟んだ北と南のしがらみが続く対立の町。
そんな町で骨探しの情報集めをしている折に、北と南の関係を一変させかねないある物が水揚げされた。
ロレンスとしては今回は商機を探しに訪れたわけではなく骨の情報さえ手に入れば良いため、面倒事との関わりは避けたい所。
だがしかし、骨に関する情報の鍵を握る肝心のエーブは北側において欠く事のできぬ人材らしい。
そしてまた、エーブにとってもまたロレンスはこの騒動を乗り切るために必要らしく…。



といった感じで、またも何やら面倒な事に巻き込まれていくロレンス。
今回は彼が欲をかいた結果や失敗に伴う窮地ではないため、さすがに同情を禁じ得ない。
ただし、今回はいつものように面倒事の渦中にあるわけでもその原因でもなく、中心人物ですらない状態。
逆に中心人物からおまえもこの話に乗れ、と引きずり込まれそうな状況というこれまでにはない立ち位置。
この辺りが新鮮味を帯びて今回の物語の面白さに拍車をかけています。


また、新鮮といえば、ロレンスが訪れた町の特性や現状を把握しておらず手探り状態から始まるのも初めての事で、半ば推理モノのように展開していく流れが楽しい。
そして今回から本格化した三人旅も非常に新鮮。
ホロとロレンスの仲が深まるにつれ、痴話喧嘩とじゃれあいの描写が増えてきたこのシリーズですが、ほぼ常時コルが傍に居ることでその描写が減ったように感じられます。
それに伴い、硬派というかシリアスさがぐっと上昇。
ホロとロレンスが出会ったばかりのシリーズ当初を彷彿とさせつつも、それとはまた違う空気感が心地良いです。
ただ、これに関しては商売やトラブルの話に重きを置くか、二人の仲睦まじい旅路を話の中心と見るかによって評価が分かれそうではあります。
後者を重視する人にとってはやや不満のある展開かも知れません。


いずれにしても、ロレンスは金銭的な問題は抱えておらず、ホロや自身の身柄を担保に窮地にあるわけでもないのにこれまででも一番の危機に瀕しているかのようなこの緊迫感は久方ぶり。
上述の前者にストーリーの重きを置いたことでとても読みごたえある話に仕上がっています。
そしてとりもなおさず、エーブという人物の存在が良いアクセントになっています。
6巻の登場以来是非再登場願いたい人物であった彼女ですが、本当に良いキャラクターを作ったものだと思います。
正直に言って今回はロレンスよりも彼女を応援したい気持ちが強いですね。


尚、元々は1冊として刊行しようとしたものの、そうするためにページを削ったら歪になってしまったのでやっぱり上下巻で出そうということになったそうです。
そのため、完成してから上下巻に分けて刊行しているのではなく、まず上巻をリリースし、その間にも下巻の手直しを進行、その後に下巻をリリースとなる関係上2ヶ月連続刊行とはならないそうです。
これだけ先の気になる話でありながら数ヶ月待ちというのは何とも忍びない話ですが、とてもおもしろいだけに我慢がまん。
ロレンスも次の巻ではかなりかっこいいらしいですよ。


はぁ、それにしてもエーブ…。
なんて素敵な女性なんだ。
しかもとびきりの別嬪だなんて…。
俺はああいう人大好きです。