ソウルソードスーパースター 下〜発動篇〜 

  • 今回の名場面

「私も、君の事は嫌いじゃない」
「でも好きでもない、か」
「それは分からない。人を好きになった事がないから」
「そうかい。残念だな」
「でも君の名前は、好き」
「俺の名前?何で?」
「タイヨウ、だから。私の能力は、太陽がないと使えないから」
(305頁)
最後の〆にこれですよ。主人公の名前すらいい加減に命名されたわけじゃあない、と。


すべて集めれば神に等しき力を行使できるとされる“ディバインソウル”の欠片。
100万の星になり一定の周期で地上に降り注ぐというその最後のひとつを手にしてしまった太曜。
手にした力は死ぬことでしか手放せない。
大人しく殺されるか、それとも他人を殺めてまで生きることを選ぶか・・・。
幸いにも、仲間と呼んで良いのかすら確信のもてない連中とはいえ、まったくの一人で生き抜かなければならない事態だけは避けられたのだが・・・。



早速下巻を読了。
前回は覚悟こそすれ、結果的には直接手を下すことはなかった太陽。
だがしかし、殺すか殺されるかのソウリストとなった以上、生き残るためには誰しもがいつかは通らなければならない道──人を殺めるという事。
そしてついに訪れたその時、夢中だったこともあり躊躇なく手にかけたのだが・・・。



という事で、一般的な作品が「倒す」だのと婉曲的に表現して避けて通ろうとする「殺人」の重圧と苦しみを丁寧に描いています。
上巻もそうでしたが、普通は省略したり避けたりしてやらないものの「現実には省略も回避も出来ない事実」をしっかり消化していく作りが素晴らしい。
太曜が好青年ではなく、嘘吐きでやる気がなくて面倒くさがりで天邪鬼の捻くれ者で(略)といわゆる“主人公”らしからぬ人物なのも逆にこの作品には合っていて良いです。


また、100万ある欠片を各ソウリストが争奪しあうに近い構図となっているのですが(それを良しとしない派閥に太曜も加入させられる)、持っている欠片の数=強さというシンプルな図式故に、単純な力勝負では初心者の太曜に勝ち目がない。
その点をどう工夫して覆すかを描く戦闘描写も面白い。


そして何より、上巻では平凡な設定や展開という印象だったストーリーが下巻にきて様変わり。
ネタバレ故に具体的なことを言えないのが心苦しいですが、ここまで時間をかけて準備して、ようやく軌道に乗り始めたレールから一気に脱線します。
上巻を読んで「こういう風に進んでいくのだろう」と想像した前提のほとんどが崩されます。
実質1巻のうちから早々とこれほどのどんでん返しを仕掛けてくるのは既存のライトノベルではあまり見られない展開だと思います。
この意外感がかなり爽快で良い。
超オススメ。


そういったわけでとても続きを読みたくなりますが、マイナーレーベルからの出版である事が懸念材料であり悔やまれる。