[小説] 彼女は戦争妖精 小詩篇 1

彼女は戦争妖精 小詩篇1 (ファミ通文庫)

彼女は戦争妖精 小詩篇1 (ファミ通文庫)

タイトルからも察せられるように、今回は4巻あとがきのとおり短編集となった本シリーズ。
短編集1回目となる今回は、既にweb上で公開済みのものの中から2本と書き下ろし1本を収録。
尚、web公開済み作品の中にはルテティアのエピソードもあるのだが、紙面の都合上今回は収録見送りとなっている。


というわけで、短編集です。
筆の遅い作家さんだったりすると、短編集なんかいいから本編をドンドン出して欲しいと思うことがありますが、嬉野さんの場合筆の速さは折り紙つきなので、その辺は気兼ねなく楽しめるのでありがたい。


さて、今回収録の三本ですが、本編中及び執筆当時の時系列とあわせて簡単に紹介します。
(時系列はあとがきにも記述がありますので、既にお持ちの方はそちらでどうぞ)
ひとつめは1巻と2巻の間を描き、掲載時期も2巻発売直前と内容に一致した形。
まだ常葉も登場していない時期となるため、主役は伊織(クリスの出番は少ない)。
父親のてがかりを得るために父の知人を訪ねて鎌倉に赴いた伊織だったのだが・・・というお話。
かなり初期の頃に書かれたものであるせいか、どことなくいまと雰囲気が若干異なる面もあり、ほんの些細な違和感を覚える人もいるかも。
また、エピソードとしてはこれといって面白みもなく、本編につながる隠し要素にも乏しい。
三本の中では一番見所がないように思えました。


続いてふたつめ。
こちらは作内時間としては1巻以前、掲載は2巻発売後となっています。
主役はひょんな形で使いきりの噛ませとなることを免れ、レギュラーとなった健二&マラハイド。
二人の出会いと健二の生い立ちなどを描き、登場人物としての二人を掘り下げるような話になっています。
個人的には今回一番のお気に入りエピソード。
物事の順序的には噛ませにならなかったから後付けでサイドエピソードをやることでキャラに厚みをもたせた、という事になるのでしょうが、読む方としてはこの話があったのでかませとならずに名実共にレギュラー入りしたのだ、とも思えるような彼らに愛着の湧いてくる物語です。
ロードとウォーライクとしての相性も伊織や常葉らを差し置いてこの二人が一番良いのではないか、とすら思えますね。


最後のみっつめ。
これが今回の書き下ろしエピソードとなり、作内の時間軸では4巻の直後となり、次に出る5巻との間の話のようです。
内容としてはまさかの山崎フィーチャー回。
まあ、活躍するのは常葉とリリオなんですが。
出番そのものは伊織やルテティア、さらにはさつきにもあるなど、登場人物は三本の中で一番多いです。
今後に繋がる伏線として割と大きな情報がひとつ仕込まれており、本編の補完役としてはこの話がもっとも重要かも。


また、全編の共通項として、ロードではなくウォーライクが仕掛けてくる形で戦いが起こる、という特徴があります。
本編ではあまり見られないケースであり、ウォーライクさえその気になればその辺の人間を手玉にとって戦うこともできるのだという発見がありました。


尚、あとがきに嬉野さんも書かれておりますが、本作での短編は外伝的なサイドエピソードというより、本編からもれたものや間を埋める補完的位置づけを狙っているようです。
インターバルとしての幕間劇といったお遊びの短編集よりも本編とのリンクが強いので、スルーしてしまうと本編を読み続ける上で多少損になりそう。
普段は短編集まではわざわざ買わない、という人も試しに買ってみては。