テスタメントシュピーゲル 1

冲方丁最後のライトノベル
衝撃の卒業宣言と共に世に送り出されたふたつの物語をひとつへと結実させる新シリーズ。
圧巻のボリューム、脅威の密度の奔流が読者を襲い、いま、終結への道筋が描かれる。


ようやくの読了となったテスタメント第1巻です。
当初はそれぞれに最終巻を出す予定だったものをよりふさわしい終着点へと向かわせるべく合流させたという本作。
なるほど、その名残なのか、1巻はほぼオイレン5巻と言っても差し支えないほどにMPB主体の展開となっている。
三人の妖精もそれぞれ別個に少なからず出番がある程度に留まり、MSSに至っては組織だった関与や登場はほとんど見られないに等しい(現場には参加しているのだが、経緯や背景、活動の様子が描かれない)。
このことに対する評価は、どちらにより思い入れがあるかによっても変わってきそうだが、均等な配分による完全な合体・調和を期待していた人にとっては肩透かしだろう。


しかし、決してスプライトがないがしろにされているわけではない。
物語の核心に確かなる関与を示している。
とりわけ、今回鳳が見せた変容は特甲児童に秘められた重大な“何か”を紐解く上でも欠くことのできない問題であることが窺える。
はたして次巻はどちらを主体とした視点で展開されるのかも含め、関心は尽きない。


というわけなのですが、先日前もってお伝えしたように単純な文字量もさることながらその情報量と密度が濃いの何の。
この場を借りてそれが悪いと言いたいわけではありませんが、この所の何かと何かを足して割って引き伸ばしたようなテンプレ化されて薄っぺらな内容のライトノベルとは一線を画していることは間違いないです。
それだけに、万人受けはしないでしょう。
読めば確かな面白さを実感できる作品ではありますが、シリーズの集大成だけあって、読み解く力もそれなりに要求されるように思います。


ただ、様々なことが詰め込まれている割に、本作に近しい要素を多分に含んでいたマルドゥックシリーズ(の中でも特にヴェロシティに近いか)よりも明らかに読みやすいのも確かな感触。
何がそうさせているのかまでは判りませんが、単純に筆者の力量が上がったからと考えるのもあながち間違いではなさそう。
この変化・・・進化は歓迎と共に大いに評価したいです。


尚、ストーリーに関しては多分にネタバレを含むため、あまり触れないでおきます。
大雑把にみっつだけ言及すると、まず、これまで一体となって戦ってきた彼女たちにとっては、初めてにも等しい自分が自力でねじ伏せなければならない孤独な戦いが多く待ち受けています。
これほどのページ数を有しながらほとんどの場面において三人はそれぞれバラバラに活動しています。
しかし、再び結束の力を見せる時が必ず訪れるはず。


ふたつめに、かつてないほど組織としてのMPBばかりかその他からも目に見える形での助力や目に見えない支援を大いに彼女たちが受けています。
中でも、これまで冷血な印象が強かった副長フランツの表に出さない心遣いが特に印象的。
感傷的な気分にさせられます。


そして、涼月と陽炎の両名に関しては、これまでにも断片的に描かれてきた特甲児童となるに至った事件や経緯の真相と究明が描かれています。
こと陽炎の件に至っては物語の核心との関連も深く、今回のメインテーマのひとつともなっています。


衝撃的なプロローグに始まり、ひとまずの安心を得た第1巻。
けれども急を要する事態は他にまだいくつも残っており、目下、彼女らにとって宿命とも言える“暴走”との決着はいかようになるのか。
次巻が大変待ち遠しいです。


ちなみに巻頭には登場人物一覧と組織図が掲載されています。
登場人物はその数の多さに圧巻の一言。
尚、このシリーズから人気イラストレーターの島田フミカネさんがイラストを担当されていますが、本編中の挿絵は一切ありません。
まあ、確かに原点はこの人の絵だったのでしょうけれど、現状で本作品の内容にこの画風がふさわしいかといえば正直言ってNO。
カバーイラストと巻頭カラーイラストのみに留まったのは正解のように思えます。