[小説] 彼女は戦争妖精 5

彼女は戦争妖精5 (ファミ通文庫)

彼女は戦争妖精5 (ファミ通文庫)

ライトノベル春の100冊フェア」に名を連ねたとか何とか。
何はともあれ、短編集を挟んだため夏以来となる本編。
薬子が!さつきが!新キャラが!という新要素めじろおしの第5巻。


無意識下のこととはいえパトリックを返り討ちにし、今回もロード同士の生存競争を勝ち抜いた伊織。
だがしかし、自分が生き延びるために他の者の人生が壊されていくことに罪悪感や不快感を覚えずにはいられない彼。
そんな彼の前に、風変わりな少女が現れ一方的に不満をぶつけてくる。
曰く、ロードはエリジウムを目指すべく積極的に他のロードを排除していく姿こそ理想的であり、それに反する理念を持つ伊織のような存在は危険因子なのだ、と。
ロードとは、楽園(エリジウム)とは、そしてウォーライクとは何なのか・・・。
新章突入。深まる謎と、動き出す吟遊詩人(ミンストレル)の影。



というわけで、「男爵」「ラ・ベル」と同格に位置する少女が新キャラとして登場。
彼女もまた吟遊詩人の一人であるらしく、彼女を中心として展開する物事を追うことで「吟遊詩人とは何であるのか」の一端を垣間見ることができる流れになっています。
ただ、現状では彼らはあくまでも未知の存在であり、全容解明には程遠く、何やら対ロードにおいて「手出し無用」という不文律があるらしいことが判った程度。
とはいえ、この点を確認できただけでも、力量では遥かに上回る彼らを相手に伊織や常葉が戦う必要性や危険性、ましてやそれで勝利を収めなければならないといった喫緊の問題はクリアされたことになります。
果たして彼らは「主催者」なのか「審判」なのか、はたまた・・・といったところですが、とりあえず「対戦相手」ではないようです。


その他、不穏分子としての存在感をいや増しつつある薬子先生ですが、今回の活動は比較的控えめ。
むしろ、ロードとしてはかなりの力を有する彼女ですら・・・といった形で強弱の尺度を読者に知らしめるための噛ませ犬的に扱われた観すらあります。
相変わらず目的も読めないですし、何とも宙ぶらりんな立場の人ですね。
それからみっちーおじさんもこの巻から宮本家の一員に加わりレギュラーとなりますが、これといった活動はなし。
ぶっちゃけて彼が出てきたところで何も変わってない、というのが現状です。


そして、良し悪しはともかく今回一番耳目を集め活躍?をしたのが、さつき。
前回ルテティアとペアの関係になることが明らかになった彼女ですが、今回デビュー戦を迎えます。
まあ、何というか・・・。わかっちゃいたけど酷い。
一応、「まだ新人だから仕方ない」ということで生暖かい目で見守るべき局面ではありますが、ロードとしての実力云々よりも血が入って豹変した時の状態・性格と普段のギャップに救いようがない気がします。。
血が入ってもほとんど変わらない常葉がいっそう輝いて見えてしまうという皮肉。
巻を追うごとにどんどんマイナスな方向に存在感を高めていっているのが何とも悲しい子。
伊織のさつきへの好感度も上がっていくどころか下がっていく一方って・・・。


一方でこのところ絶賛ヒロイン中の常葉は出番が偏っており(出番がないのとは違う)、常葉好きは複雑な心境。
具体的には、ことバトル方面では恐らく一番活躍の場を与えられているもののその反面、バトル以外での出番が皆無に等しく、そちらはみっちーに全部持っていかれたようなことになっています。
必然的にリリオもほとんど表に出ず。


そんなこんなで各人それぞれに出番が多く(ただし健二&まーちゃんのみ出番皆無)、特定の人物にスポットが集中して当たることや際立った活躍で舞台を盛り上げるといったことがなく、比較的平坦な調子の第5巻でした。
新キャラや新要素の投入も謎の解明につながったというよりは、素材が増えただけでレシピが判らないから結局前進できないといった方がふさわしい感じ。
総じて、どこか物足りず短編を除いた過去5冊ではもっともパッとしなかったような印象。
新しい局面への入り口となる巻ということですからそれも仕方のないことなのかも知れません。