とある飛空士への恋歌 4

とある飛空士への恋歌 4 (ガガガ文庫)

とある飛空士への恋歌 4 (ガガガ文庫)

平穏な旅路は終わり、ついに未知なる敵との戦いに直面したイスラ。
その初戦は大きな被害もなく切り抜けることができたのだが、いつ終わるとも知れぬ戦いとこの旅に誰もが不安を募らせる。
そして、級友を失った飛空科生たちもまた大きな悲しみに包まれていた。
この折れた心ではもう空を飛ぶことはできない。
しかし、無情にも空族が初戦を遥かに凌ぐ規模の戦闘を仕掛けてきて・・・。
怨嗟を断ち切り、未来を守るために飛べ!
終章、幕開けとなる第4巻。


全5巻であることが宣言された本作。
来るべき終幕へ向け、物語は佳境へと突入。
この4巻では、ついにカルエルとクレアの二人が互いの素性を知ることになる。
真実は二人のこれまでの関係を壊してしまうのだが、果たして彼らはこれをどう乗り越えるのか。
答えは、かつてカルエルが母から授かったあの言葉に託されていて・・・。
そうして、過去への怨嗟との決別を果たすカルエル。
後ろばかりを見てきた彼が、ようやく前を向き始めた。
これには、言葉は汚いがクソ餓鬼がやっと主人公然とした一人前になったような思いが去来する。


また、これに際してアリエルの一助があったことは言うまでもないが、イグナシオも脇を固める人物となっている。
これまでヴェールに包まれ謎の人物と言えた彼の正体が明らかに。
注目に値する要素であると同時に、カルエルは周囲の人に恵まれているなぁとつくづく思えるのだった。


その他、空戦では今回は戦空機ではなく、戦艦同士の戦闘が中心に描写される。
飛空科生の一部もこれに参加するのだが、一流の正規兵にもできぬ芸当を訓練兵がことごとく成し遂げてしまうのは、ジュブナイルの宿命ということでご愛嬌か。
前回のミツオの活躍を遥かに上回って目に余るほど都合の良い展開が続く点は考慮しておいた方が良い。
奇跡的な活躍も立て続けに続くと、段々と感動が薄れがちになるかも知れない。


そして次巻は最終巻。

1巻ごとに物語の完結する形式の作品は別として、ゴールが始めから設定されているにも関わらずの長期シリーズ化はあまり好みでないため全5巻というボリュームは非常に歓迎できる。
犬村さんの構想もさることながら続行を強制しないガガガ編集部にも感謝したい。

ようやく一歩を踏み出し成長を見せたカルエルだったが、いくら成長すれども一人の力ではどうにもならない大きな問題、彼の前にが新たに立ち塞がることに。
前作追憶の結末があのようなものであったことを踏まえると、こればかりは幸せだけの優しい展開もあまり期待できないが、果たして・・・。
また、ついに合流したレヴァーム皇国と「あの人」はどのようなはたらきをするのか。
すべてが楽しみである。