キノの旅 14

年に1冊、10月発売。
これが恒例となり、著者自身それを守れるよう努力をしている『キノの旅』。
そんな本作も10周年という節目を迎えた第14巻。
いつもと変わらぬキノの旅がそこに。


まずは言われて初めて気付いた10年目という偉業?の達成に、「おめでとうございます」そして「ご苦労様です」という言葉を。
この間に電撃文庫から様々なビッグタイトルが出てきたため、今では当初ほど脚光を浴びる作品ではなくなっているのは確かな事実としてあるが、細く長くしっかりとした作品を変わらず出し続けてくれる時雨沢さんはやはり素晴らしい。
毎年ありがとうございます。


さて、以下14巻の内容についていくつか。
今回は13巻とは異なり、短いエピソードを中心に全11本+カラー・プロローグ・エピローグの3本を収録した極めて短編集的な構成。
内容としては、相変わらずのシニカル成分を含みつつ物語が展開されている。
10周年の節目にふさわしくということでもないだろうけれど、とても『キノの旅』らしい趣きがある。


反面、これでこそ『キノの旅』だ!と言えるほどの強烈な個性があるかというと、あるようなないような答えに窮する感じもある。
全体的にこじんまりとまとまっている印象であり、際立ってインパクトの強いエピソードはない。
長編がないからそう感じられるのかも知れないが・・・。
強いて言えば呟きの国が少し凝った趣向になっていたかな?というくらい。
(とりわけ男性にとっては下腹部の辛い内容となっている)


そんな中でも最も印象深くこの作品ならではだと思えたのは、「卑怯者の国」だろうか。
こちらは2003年に発売されたPS2用ゲーム版『キノの旅』の特典として収録されたエピソードであり、7年の歳月を経てようやく加筆・修正の元に文庫へと収録された1作である。
ここでは、決して自ら積極的に行動を起こさない・善行を取らないキノの姿勢がよく表れており、そうであるキノにどこかニヤリとさせられる面白いエピソードとなっている。
他では開運の国も好きかな。


尚、師匠とシズ一行を中心としたエピソードはそれぞれ1本ずつとなっている。
また、あとがきは今回ばかりはさすがに普通のものが収録されている。

その他、カバー裏にはあとがきをテーマにしたカルタがを・んを除く48音分載せられている。

まあ、書式が講談社BOX文庫のような上下二段になっているので、そこだけ電撃文庫としては普通じゃないと言えば普通じゃないとも言える。


といったわけで、10年経っても昔と変わらぬ面白さを提供してくれる『キノの旅』の14巻でした。
この分なら15巻も心配ない。