連射王 上

連射王〈上〉

連射王〈上〉


野球部のレギュラーであり、この春三年生になったばかりの高校生─高村昴(コウ)─
野球を好きで…好きだからこそ野球を続けてきた彼は、野球が“好きなだけ”の自分と野球に“真剣”な周囲との違いを自覚し、ひとつの疑問を抱く。
「俺、何かに対して本気になれるのかな?」と。
レギュラー入りに一生懸命な後輩、各々の進路に向けて道を探し始める同級生。
その中にあって、野球のみならず他の何事にも本気になれず曖昧でいるコウ。
そんな彼が、電車待ちの時間潰しに時折立ち寄るゲームセンターで「たかが遊びであるはずのゲームに“本気”で挑む」人を見掛ける。
「ゲームは遊びだろ?」
「本気なんてあるのか、あり得るのか?」
「あるなら、一体どんな本気なんだろう。」
「それに、ゲームにさえ“本気”になれる人がいるなら…。」
そしてコウは、知らず知らずにゲームの…シューティングゲームの世界に足を踏み入れる。



長いですが、こんなあらすじの青春小説。
あくまで青春小説であり、シューティングゲーム(以下STG)は物語の一要素でしかありません。
ありませんが、洞察は深く知識は専門的*1
そして物語上の役割もとても重要であったりします。
この事が作品に与える印象はどうでしょう、あまり良くないかも知れず難しいところです。
俺は元々作中にあるようなワンコインクリアを何作かで達成した程、STGはよくやる方でした。
それ故に抵抗なく受け入れられましたが、そうでない人にはSTGのプレイ描写などは少々取っ付き難いし理解し難いのではないでしょうか。
しかし実際に肝要なのは、ゲームに向き合い何かを実感していくコウとそんな彼に関わる幼馴染の子との人間関係。
そういった意味ではいっそプレイシーンは読み飛ばされてしまうのではないか、という懸念もありますし、人によってはそうすべきだと思います。
ただ、そこを飛ばしたからとて、この作品が別のものに変わって価値が損なわれることもありません。
STGがないとコウが成り立たないのでゲームは重要だけど、プレイ描写にまでは意味が込められてはいない」このバランス感覚が巧みです。


自覚なくして取り返しのつかない方へとずるずる行っているようなコウに歯噛みし、だけどこの回り道が本人にはとても大事なことになるかも知れず、そこに感じるもどかしさ。
更に「あー、何か蓮ちゃん*2可哀想だなぁ」という想いも抱かされ、色々思うところの多い良い作品だと思います。
下巻も買いますよ。

*1:図解などの解説は親切にされています

*2:幼馴染の子