クジラの彼

クジラの彼

クジラの彼

  • ココにジンときた不意によこされる気遣い「大丈夫と連呼する人ほど大丈夫じゃない」(88頁)

なんて善い人だ(つД`)


始めにおことわりをば。
各ストーリーそれぞれをきちんと取り扱おうと思ったので、かなりの長文になっています。
それでは。


いい年した大人が活字でベタ甘ラブロマ好きで何が悪い!
と、もう開き直ったほうが楽になれるような気がするので開き直ってみんとすー。(あとがきより)


よしきた、じゃあ俺もここはひとつ。
「こんな恋愛してみてえぇぇーーーっ!」
ああ恥ずかし。
まあでも、これこそ恋愛小説の真理なんじゃないかなーと思ってます。
読み終わった後に「あぁいいなぁ、こんな恋愛してみたいな」そんな風に思えないような恋愛小説って一体?と思いますし。
そういったわけで、今度の有川さんの新作はSFなしで送られるベタな恋愛小説の短編集。
(てっきりクジラの彼の長編だと思ってたのですが、クジラは表題作という扱いで『Sweet Blue Age』に収録済みのもの以上はありませんでした。)
以下、収録順に各作品の概要を(普段より若干ネタバレに対する意識が低いかも知れません)。


・クジラの彼
同著者『海の底』の主役が一人、冬原の彼女になった女性の物語。
きっかけは合コン。
最初、気になった理由は「顔が好みだから」。
こんな始まりだったのに、付き合いだしたら離れがたくなるまではほんの一瞬だった。
それなのに、潜水艦乗りである彼とは数ヶ月に一度しか会えず、ただの遠距離恋愛とは違いその間の電話での埋め合わせもできない。
航海中の彼との唯一の接点は、不定期に送られてくるメールだけ。
それも追い討ちのごとく、こちらの数十行にも及ぶメールに筆ベタを自称する彼から届く返事は決まって三行という有様。
会いたい、辛い、私たち…本当にまだつながってるの?
疑心と不安は募るばかり、そして犯してしまった大きな過ち、小さな亀裂。
それでも彼女達はお互いを信じ続けられるのか。


・ロールアウト
自衛隊輸送機の開発に携わる重工業に勤める設計士の女性の物語。
置かれた環境があまりにも違うことで、相手の目線を考えられず徹底的にぶつかりあった相手─高科三尉─
第一印象も悪く、その後更に最悪の経験までさせられた空自の士官である彼。
そんな彼と輸送機の開発を巡り、和解、歩み寄り、共闘を経て抱くひとつの想い。
最初はあんなに嫌な奴と思っていたのに、気がつけば…。


・国防レンアイ
陸自に属するWACと8年来の腐れ縁の同期の物語。
男性隊員曰くところの「生意気でかわいげがなく調子に乗っているWAC」を驀進する鬼軍曹こと三池。
WACの中でも切っての綺麗所である彼女は、隊内恋愛での苦い経験から“外”の男との交際をしては失敗し、ボロボロになる。
そんな彼女の愚痴と後始末と立ち直りを引き受ける同期の男…もとい下僕─伸下─
所詮パシリの彼は、都合の良い時に甘えるだけの異性として意識していない…つもりの人。
一方彼は、彼女に煮え切らない想いを燻らせている。
そんな関係を何年も続けてきた彼女に突きつけられた友人の言葉で再認識する彼の存在、これほどなく信頼している…仲間。
気持ちが揺れる最中起こる元彼とのトラブル。
そんな時にいつものように助けてくれるのは…。


・有能な彼女
『海の底』の残る主役のうちの二人、夏木と望のアフターストーリー。
初対面を騙って望が夏木の元に現れてから数年、あの二人はどうなったのか。
一見、普通に男女として交際を始めた以外別段どうもなってなかったりするが、その実、内情は葛藤の年月だった…主に、夏木の。
入隊当初から「平時は問題児」であるところの夏冬コンビは相変わらず。
士官としての昇進の道行は明るくなく、また夏木自身の不器用な舌禍を招く言動も直ることなく歳は三十を数えようとしていた。
そんな自分に反して有能・快活・才色兼備、そして5つも下の若くて前途有望な望。
ある時の上陸中、仕事中の彼女を見てみたいと覗いた部署で同僚と仕事に励み溌剌とした彼女を目の当たりにした夏木は、己の迷いを更に深めてしまう。
俺と彼女がいま結婚をしてよいものだろうか、と。
そして、夏木が三十を過ぎたある日、彼のそんな葛藤を知ることとなった望が彼に返したのは…。


・脱柵エレジー
「私のことをちょっとでも好きだったら、今すぐ会いに来て」
基地の外と中、距離以外のものに因って遠い恋人にせがまれて脱柵─いわゆる脱走─を試みる新隊員が絶えない陸自のとある駐屯地の上官の物語。
今より少しだけ若かった頃、自分も同じように脱柵をしたことがあった。
そんな経験から説き伏せた部下が居る。
今は、共に未遂の新隊員を捕まえ諌めることをしている。
同じ経験をし、同じ世話役をするうちにいつしか心も通い始めていた。


・ファイターパイロットの君
こちらは『空の中』の光稀と高巳カップルのアフターストーリー。
と、二人が初めてキスをした頃の回想(笑)。
“女性戦闘機乗り”というだけでも苦労を強いられる立場ながら、単身赴任の軍務を続ける光稀。
子供を産んでまもなく、即戦闘機乗りに復帰した光稀を非難する高巳の両親。
しかし光稀は、生きてまた地上に降り家族に会うため、その為にこそ日々の訓練を全うしている。
そんな彼女を、そんな彼女だからこそ愛し支える良き夫としての高巳。
そして5歳になった娘の茜。
トリを飾る本作だけはちょっとだけ色調をかえて家族愛の趣き。


あー、よくまあこれだけ書いたなぁ…俺アホだな。
何といってもやはり、出来事中心ではなく気持ち優先で語られるこの切り口が好き。
とりわけクジラ、国防、有能、ファイターはその傾向が強い内容で…ってほぼ全部ですが。
図書館シリーズもさることながら、有川さんにはこういう物語をどんどん書いて欲しい。