カレイドスコープのむこうがわ

カレイドスコープのむこうがわ (電撃文庫)

カレイドスコープのむこうがわ (電撃文庫)

  • ココにグッときた :再会、そして再開のあいさつ「これからよろしく」(274頁)

このタイミングでそれを言うか、くぅぅ。


何の前情報も立ち読みもせずに買ってしまいましたが、先週の俺は良い選択をしたと思います。
電撃hp短編小説賞<銀賞>を受賞した作品を元に1冊の本にした作品だそうです。
全五話で構成されています。


今回は概要を説明する前に主な登場人物を先に紹介してしまいます。

  • 僕:凡庸な普通の高校生…もとい、普通の同調者
  • 淑乃さん:生ける暴君 飛んでくるのは暴言か暴力 スーツに銜え煙草の美人さん
  • 小夜:淑乃さんの使い魔 見た目10歳くらいの和服の女の子で座敷童子っぽい 淡々としていて、淑乃さんを火にたとえるなら水という感じ
  • 井上:中学の時の同級生 才色兼備な女の子 『義理じゃないけど、チョコいる?』

この書き方から察して頂けたかも知れませんが、本作の文体は一人称になっています。
物語は、1話時点でまだ中学生だった僕こと神田道弘が、下校中に淑乃さんに半ば拉致られた挙句、「おまえ“同調者”だろ?仕事に協力しろ」と訳の分からないことを言われ“祓い師”の仕事を手伝うハメになるというもの。


“祓い師”というのは名前の通りいわゆる悪霊などの異形を祓う人のことで、“同調者”というのはそういった異形を感知できる人のこと。
何故祓い師の仕事に僕が協力しなければいけないのかと言えば、本人曰く「普通の人」である淑乃さんを含め、同調者以外の人は異形を知覚できないから。
でも、同調者と同調すれば普通の人も異形を知覚できるようになるんだとさ。
要するにケータイの基地局みたいな役割をするのが同調者なんだそうな。
だから祓い師の相棒に同調者は不可欠ってことらしい。
……それにしたって、何で僕が…。



といった話なのですが、異形を祓うといっても何も怪物めいたものとのバトルなどが繰り広げられるわけではなく、その辺は割と地味な展開。
ただ、そのキワモノっぽさを狙わないところがかえって好印象。
「祓う作業」を魅せるのではなく、そういったものが生まれる所以や“同調者”などという言ってみれば異能者であることを突如認識させられた道弘の苦難を物語としている感じ。
実際、異形を祓っているのも五話中二話だけです。
そのためか道弘が高校生というのも単にそれくらいの年代の男の子であるというだけで、祓いの仕事と学校が絡んできて学園ものっぽくなったりしませんし、井上さんもオカルトとは無縁…どころか大の苦手なので祓いに関わってくることはありません。
むしろ、“祓い”や“同調者”といった非現実につながらない「心の拠り所」が井上さん。
こりゃーまず間違いなく2巻が出ることになるなぁという予感と、出たら買うぞ!という確信を持ちました。


ちなみにイラストの方も鉛筆画?の挿絵が場面場面の雰囲気を良く捉えて表現していて良い感じです。
ただ、表紙と巻頭のカラー絵だけはちょっと頂けないかも。
というのも、淑乃さんが紫髪に紫スーツ(本文で黒髪・灰色とあります)、小夜は緑髪(&黒いとあるのに赤目)、井上さんはピンク髪とアニメやギャルゲーみたいなので、オカルトな内容と相まって作品をイロモノっぽく印象付けてしまうんではないかと。
内容は意外と、と言うと失礼ですが正統派ですから損をしている気がします。