海をみあげて

海をみあげて (電撃文庫)

海をみあげて (電撃文庫)


鯨が空を飛ぶ不思議な街で暮らす少女と少年の物語。
鯨に馳せる想いとほんのり淡い恋心を描いた正統派。



単純明快に一言で言えばジブリです。
それも80年代後半〜90年代前半、一番良かった頃とされるジブリ作品の雰囲気ですね。
世界観は至ってシンプルで、10年前の大地震による震災からようやく復興し「震災とほぼ同時期から鯨が空を泳ぎだした」街を舞台にした普通のお話です。
鯨が空を飛んでいるファンタジー、地名がフィクションであることを除けばあとはすべて現実と変わらず、物語の方も突拍子のないことや奇を衒った話はありません。
極めて純・小説的な作品です。


主人公は受験を控えた中学生の─真琴─
真琴は街でも人一倍鯨に対する思い入れが強い子で、そんな彼女が同じく空飛ぶ鯨に思い入れのある人と出会い、関わり、小さな感動を体験するのが第一話。
そして第二話からは鯨は舞台に一花添える脇役となり、第二話で10年前の震災と夏祭りの花火にまつわるお話を。
第三話では、真琴が鯨と同じくらい好きな「空を飛ぶこと」を地でいく気球で、太平洋横断に挑戦しようとする人との話が書かれます。
ちなみに鯨は常時空を舞っているのではなく、不定期で空に突如として現われ、時に潮の雨を降らせいつの間にか消えていく“不思議な現象”として存在しています。


深い感動や大きな驚きのある物語ではありませんが、じんわりとしみるノスタルジックな風情漂う良作。
ジブリも良いけどたまには映画じゃなくてそんな雰囲気の小説も…と思われたら是非手にとってみてください。
尚、この本には三話までしか収録されておりませんが、『電撃hp』の8月号に短編の四話が掲載されているようです。