人類は衰退しました

人類は衰退しました (ガガガ文庫)

人類は衰退しました (ガガガ文庫)


おもしろいという評判を聞きつけて読んでみました。
結論から先に一言で「とてもユニーク」


わたしたち人類がゆるやかな衰退を迎えて、はや数世紀。
すでに地球は“妖精さん”のものだったりします。
わたしは、そんな妖精と人との間を取り持つ要職─国家公務員“調停官”となり、故郷の里へ帰郷してきました。
高齢の祖父でも勤まるのだから、さぞや楽なのだろうとこの職に就いたのですが…。
(裏表紙あらすじから抜粋及び一部改変)


人類がピラミッドの頂点から陥落、妖精にその座を奪われ危機に瀕している!
という内容を想像させられますが、そうではありません。
もっとこう、とても平和でとても穏やかな感じです。
というのも、妖精は知能こそ高度であるものの体長がおよそ10cm*1
彼らからみれば人間は巨大生物であり、また、喜怒哀楽の喜楽の感情しか持ち合わせていないかのような彼らの性格からしても攻撃対象とはならないのです。


そういったわけで、実際の内容は以下に。
徐々に始まった人口減少が加速度的に進み、いまや世界人口は億を下回ってしまった人類。
人口の減少と同時に進行した文明の崩壊も手伝い、いまや人類は“地球の旧人類”であり、現行の人類は妖精を指す言葉となりました。
そんな時代を迎えたいま、人間と妖精の接触によるトラブルの懸念などあろうはずもなく、調停官の仕事も有名無実化しているのです。
そんなわけでわたしは、今日もお菓子を土産*2に日がな一日妖精さんの生態を観察して暇を過ごすのでした。

という具合で、要するにいまをときめく繁栄人類“妖精さん”とはどんな生き物で、普段人前に姿を現さない彼らがどのようなことをしているのかを“わたし”*3が時に干渉しつつ観賞する2章からなる物語。
実に平和で暢気なものです。


まあ、状況がこんなものですからストーリーの進行も穏やかなもので、闘争だとか災害だののトラブルによる目まぐるしい展開はありません。
ただただのんびりと妖精の生態が語られるのを読んで追うだけなのだけれど、これがどうしてとてもおもしろい。
それというのも著者のユーモアのセンスが成せる業。
評判とあとがきから察するに既に他の仕事で名を残した人のようですが*4、センテンスはもちろん「わたしと妖精のやりとり」、特にちょっと舌足らずな喋り方をするのに語彙だけは妙に豊富な妖精の言葉がとても愉快。
ギャグ漫画やコメディ作品のノリではなくそういった面白さとはまた違うのですが、思わず声をあげて笑うことも多く、個人的にはかなりツボでした。


上述のとおり主人公に名前がなく、実質妖精が主役。
視覚的に訴える必要があるわけでもないため、挿絵もあってないようなもの。
ほとんどライトノベルの体を成す必要性を感じず、万人向けの作品と言えるかも知れません。


余談ですが、需要に供給が追いついていないのかちょっと入手困難でした。
買ったのはもう先月のことですが、いまや日販・Amazonは全滅。
そして当時在庫を持っていた楽天も在庫なし。
大手流通では唯一トーハンだけが在庫を残しているのみ。
あとは各書店の店頭在庫のみ、という塩梅ですね。

*1:外見はフェアリーのそれではなく、コロボックルのそれを想像して下さい。ある種『レミングス』を彷彿とさせます。

*2:生存のための摂食を必要としない妖精ですが、何故かお菓子は大好物なのです

*3:一応の主人公であり、本文も彼女がナレーションをするような形で書かれるのですが、たしか名前は一度も出てこなかったと思います。

*4:あとがきに「検索しないで下さい」=ググるな、とあるので知りたい欲求を堪えつつまだググってません。