ウェスタディアの双星

ウェスタディアの双星―真逆の英雄登場の章 (電撃文庫)

ウェスタディアの双星―真逆の英雄登場の章 (電撃文庫)


広大な宇宙空間の片隅にある小国家ウェスタディア王国を舞台にした救国劇。
という概要だけで買ってきた1冊を早速読んでみました。


今ではない遥か昔、ここではない別の銀河系──。
そこでは我々とよく似た文化を持ちながらもまったく異なる歴史を歩んできた人類が、高度に発達した科学技術を用いて星々の間をわたり、幾つもの星間国家を営んで治乱興亡を繰り広げていた。
なかでも、ロアキアとルフェールは銀河を二分するほどの強盛を誇り、銀河統一の機を虎視眈々とうかがっていた。
両国の狭間には、多数の小国が乱立し緩衝地帯となっている。
それら小国は双方からの干渉に苛まれ戦々恐々としながらも、それぞれが懸命に生き残りを図っていた。
千年も続いたこの混沌もあと千年は続くものと思われていたが、緩衝地帯の一国に生じた小さな波紋が、銀河に大きなうねりをもたらすことになる……。
(本文冒頭の一節より。一部改変)


というわけで、地球の周囲ではないどこか遠くの宇宙に何光年もある星と星の間を数日で移動する技術を有しながらも王制・君主制を主流にした我々から見れば古い体制による統治で各々国政を営んでいる人類が居た、という設定のSF小説
尚、“国家”は最低でもひとつ以上の惑星を有する国を指していますので、「国々」ということになると広い宇宙のいくつもの星々を指すことになりますし、小国であっても大概は“領地”内にいくつもの惑星を有しています。
故に、同じ国の地方Aと地方Bが別の惑星、ということも珍しくない世界ということになりますので、トーキョーからオーサカに行くのにシャトルに乗って宇宙旅行、というスケールのでかい話が繰り広げられています。

そしてウェスタディアはそんな世界で、たった一人の名君の人徳によって独立自治を保っていた弱小国家
しかしながらその名君を突然に失ってしまい…というのが本作の物語の起こり。


そんなわけで、平和に過ごしてきた小さな小さな国が一人の人物の死を機に大いに揺らぎ瞬く間に危機に陥り、残された者たちでどうにかして国を建て直し、ここぞとばかりに差し向けられる武力や政治的干渉を凌ぐという聞いただけでもたまらない設定の作品。
そして設定にたがうことなく物語の方も期待通りの進行をみせ、おもしろいです。


おもしろいですが、あえて厳しいことを言うと「展開が出来すぎている(=物事が危難の大きさに反して上手くいきすぎ)」「定型通り過ぎる」気がします。
また、登場人物がこの物語を動かすための駒に過ぎない印象が強く、個々人の感情や人間らしさがあまり描かれていない為か「各人物に与えられた設定」以上の表情がいまいち見えてきません。
もっと怒り悲しみ喜ぶ様子、感情の機微をを丁寧に描いてくれていれば尚のこと良かったのですが…。
そして、誰も彼も国政を担うにはあり得ない程に若い人物にせず(齢15の陛下を筆頭に主要人物全員が30歳未満)、一人くらい渋みのある中年や高年の人が主要人物に居た方がかえって若い連中が映えて良かったのでは?とも。
それからこれは余談ですが、ウェスタディアにとって最初の危機となるラミアムの君主レムスが性格設定・言動からして既にあまりにも噛ませ犬すぎて何とも言えない虚しさがあります。
奇抜さばかり追求するのも考え物ですが、もう少し捻りがあっても良かったように思えますね。


と、ここまで割と辛口になってしまっていますが、これも期待の裏返し。
いま正に沈まんとしている小さな星の君主に、運命の悪戯であんなにも可憐で儚げなうら若き少女が据えられるなんてズルイ設定の物語があれば期待しないわけにはいかないというもの。
(てゆーか著者の書く小説本文とは直接の関係にはありませんが、国民の誰もが見惚れる程の美貌を湛えるルシリアの容姿が好き過ぎて困る(これがまた性格の方もすばらしくてパーフェクト…)。イラストの津雪さんゴッドジョブ!)
幸いにも話の方もまだまだ序盤も序盤、序章といった塩梅ですので今後に望みをつなげたいと思います。