シゴフミ 3

シゴフミ―Stories of Last Letter〈3〉 (電撃文庫)

シゴフミ―Stories of Last Letter〈3〉 (電撃文庫)

  • 今回の名場面:この手紙を望に託すのは、君を友人として慕うがゆえだ。君が私の望み通りの行動をとってくれることを、今は何の不安も抱くことなく、ただ確信しているよ。」(162頁)



小説とは異なる世界観をもって物語を展開し話題となっている?アニメ『シゴフミ』の兄弟、3冊目。
そして今回は小説の方も初めて尽くでこれまでとが違う一面をみせています。


今回も三本構成の本作(但し話数そのものは5話。)ですが、まず一本目。
こちらは珍しく、シゴフミが出されるまで=誰かが死ぬまでの話が描かれています。
物語としては、家族や血縁・友人など近しい者のを身近にしたことがないが故に「人の死」というものに実感がなく想像が及ばず、また「人はそう簡単に死んだりしない」という考えをもったある少年と、そんな彼と出逢い感化されながら最期までの短い時を生きた少女の話。
この話は設定やストーリーの経過などはありきたりなものなのですが、結末が意外な形となっています。
大概こういった展開を見せれば最期の時に立ち会う、或いは直前に一度くらいは対面したりしているものですが、この二人の場合最初の出逢い以降ついぞ一度も顔を合わせることなく“手紙”のやり取りだけでそのまま最期を迎えてしまうんすよ。
遠距離や隔離状態だったわけでもないにも関わらずこの結末、しかも唐突にあっけなく訪れる死は驚きでした。
(ネタバレにつきステルス)


次に二本目。
実はこちらが前後中(前中後の誤りではないです)の三編からなるロングストーリーであり、その為三本構成ながら5話収録となっているのです。
そして物語はというと、前編が主に感動を、後編が主に恋愛を、中編がオチを担当。
まあ、後編に関しては恋愛といってもラブストーリーと言うほどのものではなく、近すぎる関係が故になかなかくっつかない幼馴染同士があれこれという微笑ましくもニヤニヤするようなたわいのないものだったりします。
二本目に関しては、人の死がつきまとうシゴフミにしては稀有とも言える悲しむべき所が一切ない笑いと感動の物語であるため読後感がとても良いかと思います。
ちなみに初めてシゴフミが二通、それも一度にではなく二回出される事態が起きたのがこの二本目でもあります。


最後に三本目。
こちらはこれまでのシゴフミが前提にある場合、かなり驚かされる物語かも知れません。
例外中の例外尽くしであり、端的に言って「シゴフミが何の救いも生み出しません」。
これまでは誰かの死があり、それが悲劇であってもシゴフミが救いとなりシゴフミが届けられることでハッピーエンドとなるのが当たり前でしたが、今回は逆。
配達人にとっても非常に遺憾なことに、想いが遺されシゴフミにのって届くことで悲劇が生まれます。
死者が最期に遺した想いは必ずしも「良いこと」ばかりではないのは当然のことで、少し考えてみれば必ず起こり得る、或いはこれまでも起きてきた事なのでしょうが、いやはや何とも…。
そういったわけで、こちらは先ほどのエピソードとは対照的に読後感は悲しみ湛えたマイナスなものとなるのは避けられない物語です。
また、ここでの配達は文伽ではない配達人が担当しています。これも初めてのこと。
それから、配達人を従え、杖を支給しシゴフミを届けさせている“福音局”とはそもそもどういった機関なのか。
そして配達人はどこからやってきた何者であるのかなど、これまであまり触れられなかった作品の根幹ともいえる設定に関する記述もあります。
更に変わった形式で書かれているこの三本目そのものがシゴフミの文面だったりもしており、とても珍しいエピソードになってますね。(ネタバレ)


そういったわけで、次なる4巻でシリーズは完結となることが既にアナウンスされている小説版『シゴフミ』ですが、ラストを前にしてのこの3巻は異例尽くしの要素を含みつつ、『シゴフミ』らしさを損なっていない良作と言えるかと。
アニメ化によって注目度が上がっている時期に刊行されるにはもってこいという感じですねー。