狼と香辛料 7 Side Colors

狼と香辛料〈7〉Side Colors (電撃文庫)

狼と香辛料〈7〉Side Colors (電撃文庫)

  • 今回の名場面:「ですが」(中略)「海のほうが、楽しみです」(177頁)



TVアニメが好評の『狼と香辛料』原作小説最新刊。
6巻からわずか2ヶ月というスピード発刊でしたが、それもそのはず。
今回は書き下ろしは50頁強の短編一本のみ、残りは雑誌に掲載済みの短編で構成された短編集です。


収録されている話は全部で三つ。
内訳は1冊の7割を占める外伝的中編と、それぞれ1巻と2巻の本編直後の幕間を描いた番外的短編の二本です。
まず短編の方の1本目ですが、こちらは1巻での騒動が落着した後に街で買い物をする二人を描いたのんびりムードの作品。
金儲けの話…というよりも商人の知恵に関する話はありこそすれ、本編とは違っていたって平和的な雰囲気が妙に新鮮です。


次に短編2本目。
こちらが前述の書き下ろし作品なのですが、ロレンス視点で描かれる本編とは違い、ホロからの視点で書かれています。
普段ロレンスを茶化してはその反応に喜んだり怒ったりをしているホロが、そうしながら「その実胸の内では何を考えているのか」を初めて見ることができるという、こちらも新鮮な作品。
読み終える頃には、なんだかんだ結局言ってホロの方がロレンス以上に、そしてロレンスが思っている以上にロレンスを代え難い旅の伴侶だと思ってたんじゃないか、と思うこと必至のベタ甘エピソードです。


最後に7巻最大の魅力とも言うべき中編。
こちらは順序的には7巻の頭に収録されており、また時系列の面からも最も昔の話になります。
というのも、この話はホロがロレンスと出会う以前のもの。
そして主役はホロ以外の二人の旅人であり、ホロは途中から登場する脇役に過ぎないという異色の話です。
今回は兎にも角にもこのエピソードがとても良い。
ホロが登場することで「『狼と香辛料』の番外編のひとつ」という小さな枠に収められてしまうのが勿体ないほど。
もっとこの二人の物語を読みたい。
だからいっそ3人目の登場人物をホロにせず、これ単体でタイトルを冠してリリースしてしまえば良かったのでは?とすら思うほど。


また、ロレンスが居らずホロも脇役という本編との表面上の違いだけではなく、書かれている文章や物語の質も普段のそれとは大分趣きを異にしている印象があります。
狼と香辛料』がデビュー作なので他の作品(=他の世界観)というものがまだ世に出ていない著者ですが、こういった話も書けるのかぁと思いました。
そういったわけで、この中編があるおかげで本編1〜6巻を読んだことのない人でも普通に楽しめるのではないかと。
(そういった風変わりな買い方をする人はあまり居ないとは思いますが…。)
短編集?番外編?なら買わなくていいや、と思われた方にも再考をおすすめします。