阪急電車

阪急電車

阪急電車

図書館シリーズですっかりお馴染みの有川浩さんの最新作*1
兵庫県を南北に走る全線で10駅の今津線の北線全8駅を舞台にした小説。
独走的な構成によって、今津線を利用する人たちの一期一会の物語が描かれる。


独走的と評したのは次のような作りになっていたから。
ひとりの男性が、行きつけの図書館でよく見掛け、読書層が似通っていること、そして外見が好みのタイプであった事から顔を覚え意識していた女性から偶然乗り合わせ今津線の車中で声をかけられる。
話が弾むうちに、女性が降りる駅につき彼女だけ降りるのだが、男性も後追うように駅を降り…。

という1話目があり、2話目はその時同じ車両に乗り合わせていた女性の物語となり。
3話目はある事がきっかけでその女性と車中で少し会話を交わした老人の話。
といったように「偶然乗り合わせただけ」の人たちの人生がいっときだけ交わり、それがリレーのバトンのようにつながるというもの。
電車にはわずか8駅の間でも多くの人が乗り降りをし、1つの車両の中だけでも様々な人がその日その時限りの出会いと別れを繰り返しているという発想が良いです。
(最初にアイデアをくれたのは旦那さんだとか)


各物語はベタ甘な展開でも定評があり、著者が得意としているであろう恋の話が中心。
そしてその物語も、1話目のような素敵な出会いや恋の始まりに限らず、失恋や恋の終わり、老婦の今亡き夫との思い出などなどバリエーション豊か。
と、そういった形で今津線の上り?8駅の間に8つの短編が描かれ、電車は終点で折り返し。
物語もそれにあわせて下り?の8駅を使って、前半の8話の登場人物のアフターストーリーを描くというようになっています。


語彙が貧弱なので単純に「これはおもしろい!」としか言えないのですが、各話それぞれの内容もさることながら物語が繋がっていく様もまた同様に面白いです。
そしてこの作品では他作品のようなSFやファンタジー的な要素はなく、現実にあるであろう一コマを描いたフィクションなのですが、短編ゆえの小気味良さと現実的ゆえのほのぼの加減が絶妙。
さらにどの作品でも読後感の良い物語を書く有川さんなだけに、各エピソードごとにラストがある短編の連作だとその「気分が良くなる感じ」が短い間隔で連発されるのが尚良い。
文句なくお薦めできる作品。
(もっと早くこの本が出てることを知って、もっと早くに読んでおきたかったなぁと今更どうにもならない後悔)


尚、前半の8話が文芸誌で連載したもの。
それを受けて折り返し分の後半が書き下ろされたものとなっています。

*1:今月10日に別冊図書館戦争が発売される前の時点での最新刊