スプライトシュピーゲル 4

  • 今回の名場面

「(前略)ありがとよ。じゃーな。」
なんという一方的な態度──わけがわからず、慌てて引き止めようとしたとき、
「──死ぬなよ。」
胸にその言葉がすとんと入ってきた。
 (477頁)
今回は名シーンが多すぎて…。
とりあえずそのひとつだけでも。


国際的な戦犯を捌く国際法廷の場となったミリオポリス。
都市に集結する被告と証人。
そして彼らの護衛を一手に引き受けることになったMSS。
だがしかし、その法廷は多くの災禍を断つ楔になり得る重要なものであると同時に、これを阻止するべく動く多くの戦火をも招く諸刃の剣であった。
アンタレス事件を凌駕する過酷な使命が鳳/乙/雛に迫る。



ファンタジア文庫の歴史を塗り替える埒外の分厚さになったシリーズ最新刊です。
これは物理的な文字量だけではなく内容の密度のせいもあってのことなのですが、読み終わるのにえらく時間がかかりました。
しかし、それだけの労を賭して…いや、労とも思えぬほどのものがここにある。
これは、超大作だ!


とゆーわけでですね、すごいです今回は。
言ってる事が漠然としすぎで要領を得ませんが、如何せん物語が描かんとする様相が広範すぎて稚拙な文章ではフォローし切れないんです…。
とりあえず言える事は、この巻での話は一部ノンフィクションが含まれており、そのノンフィクションとは現在進行形でいま世界のどこかで起こっている紛争であったり、この先に待ち受けているであろう環境問題や全世界的食糧危機など。
とりわけ紛争問題に関してはサブ的なものではなく、戦犯法廷での議題でもあるため事実にフィクションを加え相当丁寧に話を練り込んで作られている印象を持ちます。


また、シュピーゲルプロジェクト…というか冲方作品の必定でもある「主役以外のゲストキャラクターの死亡」が今回も嫌と言うほど付き纏っているのですが*1、ただ無為に死に果てて行くのではなく死者は死をもって事を成し、遺された特甲児童は胸を打つ痛みに耐え涙を噛んで彼らの墓標を守りその死を無駄にしない姿勢がいつも以上に生きています。
次々と死に行く者とその死を背負う鳳らの姿は悲愴であり悲劇以外の何物でありませんが、残酷さが読み応えをもたらしているのもまた事実と言わざるを得ない巧妙な作りですね。


更に物語がアンタレス事件を越える難局を迎えるこの話では、2巻以来となるMSSとMPBの特甲児童─オイレンとスプライトの主人公たち─のクロッシングが起こります。
それも2巻の時のような軽く触れ合うようなものではなく、がっちりと結びつくといった具合に。
それだけ交わっているのでストーリーも今月発売されたオイレン4巻と相当にリンクしているらしく、片方を既に読んでいるか読んでいないかで印象が変わりそう。
実際、このスプライトを読んでからの方がオイレンでのストーリーの理解度が上がるという声もあるようです。
(完成はオイレンの方が先なのに発売が延期され、先にスプライトが出るようになったのはその辺も考慮してのことかも知れません)


尚、今回ついに敵性勢力側がMSSの特甲を上回る戦力を手にしてしまいました。
鳳らもそれに抗する力を手にし、対抗しますが個々の力では及ばない模様。
そこをカバーするのがチーム力、ということになるわけですが、シリーズ完結までの残る5・6巻ではどうなるかわからないですね。


とりあえず他に読もうとしていた作品がありましたが、真っ先にオイレン4巻を読む事にしようと思います。
またしばらくお待ち下さい。

*1:今回は特にきついです。何しろ登場人物がこれまでになく多いゆえ。