オイレンシュピーゲル 4

  • 今回の名場面

「自分のふがいなさを他人のせいにするな。
人生はこんなものだと決めつけるな。
心に抱いたものを信じてKeep moving forward(前へ進み続けろ)
どれほどの挫折の中でも──Straight forward(真っ直ぐ前へ)
お前が誰よりも胸を張って自慢できる、その大人顔負けのガッツがあれば可能なことだ。」
 (322〜323頁)
英語部分は実際には日本文にカタカナで英文のルビがふられています。


場面云々抜きに科白だけを考えたらミハエルの
「祈りたい気分ですな。
あなた方が、兵士も人間なのだと思ってくれていることを。
特に、不幸を生き抜き、機械の手足を死に物狂いで受け入れた女の子のことを、使い捨ての試供品だとおもっているわけじゃないってことを。」

も名言。


ここにきて密接なリンクを魅せるシュピーゲルプロジェクトの片割れ。
今回の紛争の根本となる“戦犯法廷”はスプライト側の任務地で執り行われようとしており、重要人物もそちらに集結しているためこちらの舞台はアナザーサイド的な位置付けと言って良さそう。
ただし、事件の本質を追う“捜査”のミステリー感がない代わりに三人娘の内心に迫る感情の機微への追求が深い。
とりわけ全登場人物の中でも涼月がお気に入りの人(つまりは俺)からすれば、垂涎ものと言って良いです。
キャラクターへの思い入れがより強くなりそうなのはオイレンの方だと思います。


さて、事件の概要及び大雑把なストーリー展開はリンクが密接なためスプライトでの感想に一任するとして、
スプライト4巻の感想はこちら
あちらと違う点、逆に同じ点をいくつか。
 まず違う点ですが、こちらでは打ち倒すべき対象…敵の姿と所在がハッキリとしています。
しかしあちらと違い人員、特に装備が貧弱なため後手後手の防衛に廻らざるを得ない点は同様。
 次に小隊長(鳳と涼月)がゲストキャラクターである男性と成り行き上ペアでの捜査を強いられる点が類似。
あらゆる事において先輩である彼らから色々な事を学び取っていく様子もやはり同じように描かれています。
ただし組んだ相手の性格はまったくの別物で、涼月の方がちょっと気の毒かも。
 軍属の脱走特甲猟兵が2名登場する点は一致するも、こちらは彼らがタッグで戦闘行動に及んでくる事が多いです。
(三つ子の兄弟という特殊条件により、「レベル3は単独が基本」の原則から外れている)
 また、これはネタバレに当たりますがこちらではゲストの登場人物が死ぬことはなく二名とも生存
尚、スプライトであまり姿の見られなかった本来あちらの登場人物であるバロウ神父は、今回こちらでの出番が多いです。
更に彼同様これまでスプライトでしか登場することのなかったあの特甲児童がこちらに登場しています。


最後に両方読んだ上での話になりますが、やはり評判通りこちらを後に読んだ方が良いと思われます。
今回は相互連関がとても強いのでどちらから先に読んでもどのみちもう一方の展開が先バレしてしまうのですが、こちらが先の方がデメリットが少なく、メリットが多い模様。
 というのも、あちらが鳳とFBIの彼(レイバース)とでの犯人の追跡・捜査、「7人目の証人とは誰なのか」といった謎解き要素を含んでいるというのがひとつ。
 ふたつめに、こちらを先に読むと「こちらで涼月とパートナーを組むパトリックがした昔話に出てくる旧友がレイバース」なのだとスプライトを読み始めてすぐ判明してしまうのに対し、あちらを先に読んだ場合は「レイバースのした昔話の旧友がパトリックである」ことはオイレンを読み始めても当分の間は分からず中盤以降になって判明し、驚きを味わえるという事(ささいな事ですが)。
 そして何より、鳳の側は涼月の事をほとんど憶えていないのに対し、涼月は昔に鳳と会ったことがある=あたしはコイツを前から知っているという記憶がおぼろげにある様子。
(上述の初めてこっちに登場した特甲児童もその辺りの“過去の出来事”について言及)
また、スプライト3巻でようやく逮捕したにも関わらず、同じ人間が二人居るという事態のせいでむざむざと釈放せざるを得なくなってしまった(ネタバレ)リヒャルト・トラクルの“セカンドマン”現象を解く鍵もこちらにだけ用意されています。
てゆーかこの“セカンドマン”を解く鍵は危うく見逃しそうになるほど些細な事のくせして、4巻の枠を飛び出していくほどの重大さを持っています。
げぇっ!?そんなところに伏線張られてたのかよ、じゃあ1〜3巻からもう既に…?読み返して確認する必要ある?と正直驚きを隠せなかったです。

といったわけで、比較的あちらでは見えてこない話・部分などがこちらでは見えてくる場合が多く、それならあっちが先の方が良いだろう、と思うわけです。


と、長々書きましたがその辺は人それぞれ考え方によって変わってくる部分もあると思いますので。ぶっちゃけ好きな方から読んじゃえば良いような気も。
なんにしてもこの先の展開から目が離せなくなってくるのは間違いないですね。