DRAGONBUSTER 01

龍盤七朝 DRAGONBUSTER〈01〉 (電撃文庫)

龍盤七朝 DRAGONBUSTER〈01〉 (電撃文庫)

  • 今回の名場面

「お主はすごいのだ!
世の男どもをすべて合わせてもお主には及ばん!
妾は来る日も来る日もお主のことを考えて剣を振るっているというのに、お主にそんな平気な顔をされたらこれ以上どうすればいいのだ!」
 (258頁)
愛の告白ですか?


イリヤの空、UFOの夏』で有名な秋山さん久しぶりの新作。
今回は古橋秀之さんとの共同企画もの。
但し世界設定などをあらかじめ事細かに決めておくことはせず自由度を高くもたせ、その結果矛盾が生まれても良い程度の縛りでやっているそうです。


本作はシリーズタイトルに龍盤七朝とあり、表紙からも分かるとおり中国の王朝期をイメージさせ、武侠を主軸としたファンタジーもの。
主人公は一人が王朝の皇女─月華(ベルカ)─
ただし第十八皇女という事もあり、王族の貴賓を貶めない事だけが望まれる他は何も期待されていない。
それ故かそれとも生来のものか性格は真っ直ぐではなく、また、度々屋敷を抜け出ては市井をうろつく鼻つまみもの。
その彼女が街の外れでひと目見ただけで強く興味を惹かれる程の“剣”を揮う青年─涼狐(ジャンゴ)─がもう一人の主役。
しかし自らが揮う剣の持つ意味と力を自覚しておらず、また王朝でも爪弾き者/差別の対象である山岳民族でもあるため場末の道場の下男と似顔絵書きで日々の糊口を凌いでいるような社会の末端に位置する者。


そんな出会うはずのなかった二人が出会ったことで壮大な物語が幕を…開けません。
いや、開けるかも知れませんが、今の所はこれといって特に。
身分の差を越えた大恋愛が始まるでもなし。
涼狐の剣が日の目を見るでもなし。
涼狐の剣を見た月華が大リーガーに憧れる少年のように自身も剣を始め、そしてそのきっかけとなった涼狐を探し、やれお前の剣は凄いだの勝負をしろだのと付きまとい、涼狐はこの子は一体何を言ってるんだろうと迷惑顔。
というたわいもない物語です、表面上は。


表面上は、というのは、やはりイリヤの空でもそうだったようにふとしたきっかけで誰も気に留めなかった涼狐の剣が、或いは誰も咎めだてしなかった月華が卑しい身分の涼狐と通じている事が、はたまた別の何かが大事になりそうな気配だけはひしひしと感じられるから。
また、登場人物も何人と出てくるのですが、大半はどこの者とも知れず、涼狐や月華と関わり合いになることもないままに一度ちらりと出たっきり1巻ではもう出てきません。
そういったわけで、物語の序章的色合いの強い第1巻となっています。
そして2巻ではついに武侠モノらしく戦いと血が流れる展開へと発展する模様。
一応あとがきでは「2巻でラストまで」とあるので「これだけの土台を築いたのにもう終わり?」という思いが強いですが、どうなることやら。


最後に一言。
いやーしかし久しぶりに秋山作品を読みましたが、相変わらず人物を創り、人物を描くのが上手いですね。
若年層向け作品にありがちな「こんな奴居るわけないだろ」という虚構にまみれた人など一人もいませんでした。
早く2巻出ろー。