時砂の王

時砂の王 (ハヤカワ文庫JA)

時砂の王 (ハヤカワ文庫JA)

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「口を出すだけの主に何ができる?
それで戦っていたつもりか?自惚れるな。
これは妾たちの戦だ。
主がおらずとも妾たちは生き、死んでやるわ!
惑わしの魔女め、疾く失せろ!」
 (258頁)
この辺りから物語がクライマックスを向かえるのですが、涙腺決壊の危険度が極めて高い展開が待っています。
涙脆い俺は当然のごとく全然無理でした。


稀代のSF作家小川一水が送る自身初となる時間SF。
感触としては同著者の『復活の地』に近いものがあり、強大な脅威に心折れずに立ち向かい生存を勝ち取る人々の生き様が胸を打ちます。


と、いうわけで小川さん初の時間SF。
裏表紙のあらすじを引用するとこんな感じの物語。
西暦248年、不気味な物の怪に襲われた邪馬台国の女王・卑弥呼を救った“使いの王”は、彼女の想像を絶する物語を語る。
2300年後の未来において、謎の増殖型戦闘機械群により地球は壊滅、さらに人類の完全殲滅を狙う機械群を追って、彼ら人型人工知性体たちは絶望的な時間遡行戦を開始した。
そして3世紀の邪馬台国こそが、全人類の存亡を懸けた最終防衛線であると──。



正直これだけだと良くわからない。
下手なりに説明すると、
西暦およそ2600年、ETに地球を壊滅させられた人類。
更には月、火星水星と次々に攻められ太陽系のほとんどを失った人類だが、必死の反撃が奏功し、ETの殲滅もそう遠くない状況を迎えていた。
しかし、劣勢を悟ったETは残る戦力を過去へと遡行させた。
今よりも対抗力の劣る人類を滅ぼす作戦に出たのである。
そしてそのETを追い過去へと送られることになったのが、人工知性体と呼ばれる人造の人間。
彼らの使命は過去の人類へと危機を伝え、結託してこれに臨みETを今度こそ根絶やしにすること。
重大な使命を胸に、時間遡行を始めた彼らであったが…。

という流れ?


要するに人類がやばいことになったので感情も思考力もあり人間と何ら違いはないが、寿命というものがなく人間に出来ない事のできるターミネーターみたいな彼らにETの追撃が託されるのが物語のスタート地点。
そこから先は思うようにET撃滅が進まず、幾度となく人類の滅亡を体験しつつ、知性体が更に過去へ更に過去へと辛い消耗戦を重ねていくのが片翼。
そしてもう片翼が、そういった精神を磨り減らす戦いを続けてきた結果、これ以上後には引けなくなった状況で迎えた二世紀での最終決戦。
この両翼の物語を交互に描き、最後には両者が交差して一本の線となる構成で作られた作品です。


まあ、兎に角もさすが小川さん。
めちゃくちゃ面白いです。
わずか1冊、300頁に満たない作品でここまで充実したストーリーはなかなかお目にかかれないですね。
SF的な要素云々以前に存亡に瀕した人々とその代表で─卑弥呼
そして彼らをサポートする知性体の一人である主人公─オーヴィル─らの戦いがアツイ。
感動の大作でした。