風の邦、星の渚 レーズスフェント興亡記

風の邦、星の渚―レーズスフェント興亡記

風の邦、星の渚―レーズスフェント興亡記

  • 今回の名場面

「こじつけだったら、なんなの。痩せても枯れても私は伯爵の娘よ。私が叙任するというのだから、ルドガーさまは本物の騎士なのよ!」(306頁)
この心強き言葉がルドガーのみならずハインシウスの心も救ったように思えます。


SFを主戦場に様々な趣向の作品を書く小川氏の最新作は自身初となるハードカバー刊行。
今回の趣向は歴史ファンタジー
中世終期、14世紀のローマ帝国(ドイツ)に起きたひとつの街の勃興を四半世紀にかけて描く。


帝国の辺境、モール荘に若き騎士が荘司として遣わされた。
事実上の流刑である。
そして、着いた先の村は騎士の想像する以上に枯れ果て、死にかけた村であった。
そんな僻地に着任した騎士が内情の把握に努めるのもつかの間、蛮族による襲撃予告がもたらされ・・・。



というように始まる“レーズスフェント”なる街の成立から発展までの一大記。
中心となり奔走するひとりの人物をメインに、街や都市などのコミュニティの興りからその繁栄・維持、幾多の苦難が描かれます。
これがもう、読み進める間の高揚・興奮や読後の満足感の充足振りがたまらないです。
この分野は『第六大陸』や『復活の地』(こちらは既にあるものの再建ですが)といった前歴がありますし、小川さんがもっとも得意とする領域なのかも。
小川作品を読む度に言っている気がしますが、「さすが」の一言を送りたい作品。


ちなみに地理や歴史的な当時の勢力図など大雑把な概観は史実に因ります。
但し、当時には絶対なかった要素としてファンタジー・・・というよりSFでしょうか、地球外の生命体が物語に深く関与してきます。
とはいえ地球外と言っても時代が時代であり、物語が星間規模にまで発展するような規模の拡大はなし。
エイリアンといったものでもなく、単純に「人ならざる超常の力を持つ精霊や土地神のようなもの」が居る物語と考えて頂ければ良いです。


これまで文庫で著作が発売されることが多かっただけにハードカバーの今回はお値段も張りますが、それだけの価値はあります。
お薦めです。