キノの旅 12

  • 今回の名場面

「おい!あれは先日来たっていう旅人さんだよな・・・・・・」
ひょっとして、なにかあったのか・・・・・・?」
「申し訳ありません。規定で申し上げることができないのです・・・・・・」
二人の郵便屋達は、悲しげな表情で、同じ言葉を繰り返した。
男はそれで察した様子で、
「何かがあったんだな・・・・・・。ちょっとして、最近の寒波が原因か?」
「申し訳ありません。規定で・・・・・・」
泣き出しそうな郵便屋達を見て、
「分かった!もう何も言わん。手紙、確かに受け取ったぞ!」
男は、そう言うと身を翻し、玄関へと戻っていった。ドアを開けて、くぐり抜けて、そして閉める直前に
「ありがとうな!」
大きな声でそう言い残した。
(142頁)一部省略


時雨沢さんは3の倍数を作品の一区切りと考えている。
映画などの3部作然り。
キノも当初3巻で終わったつもりだったそうな(『終わってしまった話』が象徴的)。
そしてそんなキノもこれで12巻、3の倍数すなわち最終巻。


だった可能性もあったねー、という話。
全然終わってませんので、悪しからず。


さて、今回は長編なしの短編16本。
緊迫感漂う話─早い話がキノがパースエイダーを抜かなければならないような冒険─もなし。
久しぶりに機転や狡猾さ、立ち回りの良さを見せるキノのアクションも見たかったので少し残念。
比較的穏やかに、短い話がサクサクと。
心温まるエピソードよりも、この作品の顔とも言える皮肉の効いたエピソードが多いです。


そして16本とエピソード数も多いので、ひとつやふたつは必ずお気に入りのものが見つかるのではないでしょうか。
個人的には『手紙の話』で目頭が熱くなり(オチが酷いですがw)、『日時計の国』(もしくは『正義の国』あるいは『続・寄付の話』…って、多いな)で皮肉を堪能させてもらいました。
『賭けの話』もオチは読め易いですが、面白いです。
更に初めてエルメス以外のモトラド(無論、しゃべる)まで登場し・・・。
これだけの歳月と巻数を経てもまだまだ褪せない面白さがあります。


ちなみに今回はあとがきは普通。ちょっとページ数が多いですが。
内容は11巻同様、普段本を読むだけの人にとってはあまり知りえない内側の話。
プロット→執筆と始まり、脱稿→完成までの経緯が紹介されており、興味深い。
尚、あとがきの代わりにエピソードがひとつ妙な箇所に収録されています。
普通に読んでいると15本しかありません。
前がないのにいきなり『続・〜〜の話』というエピソードが出てきますから気が付くかとは思いますが、残りひとつはカバー裏にありますのでご注意意を。
(カバー下ではありません。外したカバーを裏返してください。)