モダンタイムス

モダンタイムス (Morning NOVELS)

モダンタイムス (Morning NOVELS)

  • 今回の名場面

「撃つぞ」
「よけるわよ」
(480頁)
拳銃で撃つぞ、と脅されてよけるからどうぞご自由に、と答える女性って(笑)。


検索から、監視が始まる。
「見て見ぬふりも勇気だ」
それでも踏み込むのか?その勇気はあるのか?



週刊漫画誌『モーニング』で連載されるという一風変わった手法で世に出た長編の単行本。
全56回に渡り掲載された作品が加筆修正の上、収録されている。


というわけで伊坂さんの最新作。
舞台は『魔王』の時と同じ世界、同じ日本。
時間軸だけがあれから何十年も後となっている以外は『魔王』からの系譜が見られます。
但し続編といった類のものではありません。
また、リリース時期こそ異なっていますが『ゴールデンスランバー』と同時期に執筆されていた作品でもあるため、著者自身もそう語っている通りそこはかとなく同作品との共通性が感じられます。


ストーリーは好意的に「相変わらず」と表現させて頂きますが、「突拍子もない」「荒唐無稽」と評するのが相応しい突き抜けた話。
主人公はある事態に直面し、敵対的な勢力からの攻撃を受けるわけですが、そもそも“敵”というものが茫洋としすぎており、見当が付かないまま物語が進行。
そしてその果てにようやく見えてきたものはあまりにも長大で掴み所のない“システム”という敵だった、という作品。
仕組み・システム・社会。
そういったもので表現されるものの背後にある明確な陰謀との戦いを描いたのが『ゴールデンスランバー』でありましたが、それに比してこちらはそもそもその陰謀そのものが意図されて発生してはおらず、誰の意志でもなく自然発生的に「そうなるようになっているから起きただけ」といった塩梅に重く広く大きくのしかかってきます。


要するにゴールデンスランバーの方がまだ戦う相手がはっきりしていた分、勝ち負け(=決着)のつくストーリーだったのに対して、こちらはそもそもそういった勝負の構図ですらなかった、という感じですね。
てっきり本作も陰謀をはたらかせる首謀者が居て、主人公がそれと対峙する展開になるのかと思い(実際、かなり後半まではそういった調子で物語が進行します)、そのつもりで読んでいただけに結末が意外なものに思えました。
その点ではスカッとするハリウッド的なエンディングを迎える作品ではないため、ある種肩透かしを食らったようながっかり感に近いものを感じてしまうのも仕方のないことなのかな?とも思えるわけでして。
どんどん複雑になり肥大化していく構図にどう決着が付くのかと思えば結局決着付かず終いで「そういうことになっている。なっているのだから仕方ない。」とされてお終い。
終盤まではとても面白かっただけに、結末の収まり所がいまいち落ち着かないものになってしまっている点だけが残念。
まあ、あのオチでこそこの作品が出来上がるのでしょうし、話もよく練り込まれており面倒な概念論も苦にならずに読ませる書かれ方がされていたので最後に至るまでの話はとても面白いのは確かです。


尚、発刊にあたり加筆修正はされているものの大筋(プロット)だけを決め、残りは毎回編集と打ち合わせをして書き進めるという一般的な漫画の書き方と同じ手法でかかれた小説だけにどこか特殊な趣があります。
1冊全体ではなく、連載1回1回に起承転結や話の起伏が見られると言えば良いのか、何にせよ小気味良いテンポでストーリーが進展する印象が受けられます。
こちらだけ読んで『ゴールデンスランバー』がまだの人はあちらを。
あちらだけでこちらがまだの人はこちらを読んでみることをそれぞれお薦めします。
無論、これを読むからには『魔王』も読むべきなのは言うまでもなく。