ナインの契約書

ナインの契約書―Public Enemy Number91 (MF文庫J)

ナインの契約書―Public Enemy Number91 (MF文庫J)

シリーズではなく新作の発掘はかなり久しぶりのライトノベル
MF文庫Jの新人賞にて佳作受賞作とのこと。
こういった比較やたとえは本来不適切だとは思うのですが、喩えた方が話が早く伝わるので便宜上止む無く・・・と回りくどく断った上でたとえると、ダークな『しにバラ』


というわけで実に4ヶ月ぶりに新人さんの作品を読んでみました。
主人公は寡黙で無愛想な少女の姿をした悪魔、九(いちじく)。
そしてペラペラ舌のよく回る男の姿をした使い魔のカラス、一(にのまえ)。
が、彼女らはあくまでナビゲーターのようなもので、3本あるエピソードの主役はそれぞれ別の人間たち。
そんな人たちが魂と引き換えに叶えてもらったひとつの願いを描く物語。


ちなみにどんな願いが悪魔に託されたのかは物語の最後の方まで明かされない形でストーリーが進行します。
これによってある種ミステリーとしての色合いも強く感じられ、物事をきちんと整理して考えないと混乱することもある複雑さが面白い。
そして願いはどれも有体に言って「負の感情」に満ちたもの。
願いで誰かを救ったり幸せにしたりといった『しにバラ』に多かったプラスなものがこちらでは見られない。
それゆえに、物語とその結末は読後感のあまり良くないバッドエンドになりがち。
但しそれは著者も承知のことなのか1冊に3本あるエピソードのうち最後の1本だけが前2つとは若干毛色の違った終わり方をしており、このギャップと幕の閉じ方が良い。


また、九はモモのように積極的に人に関わり手助けをしようとすることもないのですが、かといって一般的な悪魔像とは違い、どんどん契約を取って魂を取ろうという意気込みも見られない。
むしろどちらかと言えば使い魔の一がそういった姿勢であるにも関わらず、無感動無関心を装いながらも心のどこかで人間に好意的な(或いは憐れみなど)を寄せているようにも見える。
そのため、本当は解っていながらあえて仕事を失敗しているような節があったりと、クールでドライに見えて実は?と思わせる九がなかなか可愛い。


作中の端々に散りばめられたブラックでダークな要素は万人受けし難いとは思いますが、個人的にはぜひシリーズ化してもらって次を読みたい一作。