旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。

旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。 (電撃文庫)

非シリーズもので興味を惹かれた旧作を発掘しよう企画の一環として見つけてきた一作。
これがデビュー作という新人さんによる完結式の物語。


「喪失症」
そう呼ばれる未知の病が蔓延して久しい世界。
発症した人は名前を失い、やがては自身が生きた痕跡すら残さず存在が消滅してしまう。
そんな世界を一台のカブが走っていた。
名も無き少年と少女を乗せて･･･。


というわけで、原因不明・治療法不明の病が広がる終末的な世界観を伴った作品。
主人公である二人に名前がないのは彼らもやはり発症した患者の一人であるから。
消え行くまでの残された日々を無為に過ごすのではなく、世界の果てを目指して旅をしようと旅立つ。
そこに意味があるかは分からない。
ゴールがあるとも思わない。
けれど、ただ諦めて最期を迎えるのを待って後悔したくはない、というお話。


旅に終わりがないように、物語にも終わりらしき終わりはないです。
ネタバレになってしまいますが、こういった設定で始まるとまず真っ先に最後には「どちらか、或いは両方が消えて終わる」ラストを想像すると思いますが、そうはなりません。
旅を続ける中で出会った人々（全員が発症患者）から物資の支援を受ける*1過程で交流をし、やがて当ても無く次の目的地へ向けて旅立って･･･を繰り返す短編形式の物語です。


そういった意味では、破滅的かつ劇的な設定があるにも関わらず雰囲気はどことなく穏やかで長閑な情緒を伴っています。
激しく心揺さぶられる作品ではありませんが、じんわりしみじみと浸透してくる感じが心地良い作品です。
静的な物語を好む人には特にお奨め。

*1:人々が次々消えていっているため、もはや社会インフラがまともに機能しておらず、旅を続ける上では水の確保すらも困難だったりする世界