狼と香辛料 11 Side Colors 2

狼と香辛料〈11〉Side Colors2 (電撃文庫)

狼と香辛料〈11〉Side Colors2 (電撃文庫)

  • 今回の名場面

「もう貴族ではない。商人だ。私の名は」
心の安らぎすら金に換える商人になるために、最後の覚悟を後押ししてくれたミルトン。
フルールは、彼の名前を拝借することにした。
「エーブ」
「エーブ・ボラン。商人だ」
(280頁、一部略)


今回は本編はお休み、2冊目となる短編集。
本編中の幕間を描く2本のエピソードに加え、商人エーブの誕生秘話を綴った中編の計3本を収録。
エーブファンならずとも必見の1冊。


さて、というわけで本編中ではもう再登場はないであろう人気の人物エーブ・・・いや、フルールの話がメインとも言える11巻です。
以下、収録順に概要など。

  • 狼と黄金色の約束

時系列では4巻と5巻の間のあたる話。
街道沿いで鶏を売る青年を見かけたロレンスが、そこに儲けの源泉を見出し開拓間もない村に立ち寄るというもの。
その村はまだ様々な点で至らぬ点が多く、ロレンスは知恵を貸すことになるのだが、そのロレンスも頭を悩ます問題の解決にホロからの入れ知恵が入り・・・。
商売っ気はあまりなく、ロレンスとホロの二人の掛け合いが主軸。

  • 狼と若草色の寄り道

恐らくは5巻と6巻の間のエピソード。
まさしく短編というにふさわしい30頁にも満たない短さではあるが、本編中に度々垣間見られるロレンスとホロのやりとりのみを描いており、その面においての密度だけはやたらと濃い。
逆に商売や金銭に関わる話は一切ない。

  • 黒狼の揺り籠

商人としてロレンスたちの前に現れ、没落貴族であったことだけが知られている人物エーブ・ボラン。
ここではまだ貴族の座を転げ落ちて間もなく、駆け出しの商人と称するのおこがましい右も左も酸いも甘いも知らない頃の彼女。
この話では、そんな彼女が大きな失敗を犯し苦い経験をすることで如何にしてかのような女傑となるに至る決意を固めたかが描かれています。
本編中での彼女を思うと大変感慨深い一作。


というわけで一にも二にもエーブのエピソードが見所。
ともするとホロよりもエーブの方が好きな者としては主役というだけでご褒美なわけですが、話としても大変面白い。
前二本の短編に関しては本編中のような商売や「知恵を巡らせる事の面白さ」といった要素はほとんどないため、あくまでロレンス・ホロのいちゃいちゃを楽しみたい人向け。
一方で、この巻の6割程度を割く中編は本編と比しても遜色ない読み応え。
2巻にて武器で大損をしたロレンスの時同様、どれほど商人の世界が狡猾なからくりで回っているかが窺い知れる話にもなっています。


ただ、ここでの経験は兎も角として、エーブの境遇そのものは本編での口ぶりから想像していたものよりかなり恵まれていたようです。
優秀な後見人に身の回りの面倒を見てくれる者もおり、ひとまず日々の食事に困るほどでもない、といったように。
時系列ではボラン家を買った成金商人も破産した後のことであり、一番酷かったであろう買われた後が過ぎた時点ではありますが、話し振りからもその時もさほど酷かった様子は窺えず・・・といった塩梅。
見目麗しい女性でもあるエーブですからもっと悲惨なものを想像してただけに、ほっと胸をなでおろす反面肩透かしを食らったような気がしなくもないです。
ああでも、やっぱエーブはいいな・・・本編でまた出てこないかなぁ。出ないだろうなぁ。