ナインの契約書 3

  • 今回の名場面

「この世界は酷いところだ。本当に酷いところだ。夢も希望もありゃしない。それでも生き延びとけよ。必死に生き延びようとするのは醜いが、その醜さが人間の本分だ。本分を全うしろ。いいか?約束だ」
少女は言った。
「約束?」
「ちゃんと生きろ」
「何、それ?」
「だから約束だ。契約じゃない」
(231頁)
契約・・・では、ない。


九に対し、敵対心を隠さない悪魔一二三。
ついにその矛先は九へ直接向けられる事となり・・・。
悪魔の職分を越えた、魂のゲームが始まる。



というわけで、最新刊です。
さて、1巻2巻とショートエピソードの集まりで1冊の本となっていた本作ですが、今回は初めて長編の形式となっています。
また、これまでは各話の中心となる人物がゲストとしており、九らは物語の最中に不意に現れ、少しの関わりを持つだけという立場にありました。
が、今回は中核となる人間こそ居るものの、九自身が常に出ずっぱりで物語り関与しています。
さらに叶えたい願いを持ち、悪魔と契約をする者を描くのが常でしたが、今回はそれもなし。
契約を結ぶ人間も、願いも出ないままストーリーは進行していきます。


では、具体的に3巻はどういった内容なのか。
一言で言えば、シチュエーションスリラー。
九を毛嫌いする一二三が彼女に勝負をふっかけ、その勝負の駒として巻き込まれた人間らと共に九が奮闘する、といった様相を呈した展開となっています。
負ければそこには待つのは死、というゲーム。
巻き込まれた人間から見れば『cube』や『saw』といった映画のような状況と思って頂ければ分かり易いかと。


尚、この巻で最終巻だそうです。
シニカルで風刺的な雰囲気を持つ作風と刺々しさの中に特有の優しさを見せる九が魅力的な作品でしたので、これで終わってしまうのは勿体無いように思えます。
まあ、このジャンルには結構な先行作が残されているので、そこに埋もれてしまったのかなぁ。
著者の次回作に期待しておきます。