アイゼンフリューゲル

アイゼンフリューゲル (ガガガ文庫)

アイゼンフリューゲル (ガガガ文庫)

速く速く、ただ何よりも速く飛ぶ。
あの空を支配する龍よりも。
これは、空を支配する神々の領域を目指した挑戦者達の物語。


さて、伝説のタッグによる〜などとご大層なフレーズが踊る帯で喧伝されている一作。
ただ、実際のところ口悪く言えば虚淵&中央氏が何者であろうとそんなことは知ったことじゃない。
ゲームとかやらないから尚更知ったことじゃない。
ゲーム界でいくら名を馳せてても小説で良い作品が作れるとは限らない。
しかしそういった考えからの贔屓目なしで、この作品は面白い。


舞台は空に龍が飛び交う架空の世界。
彼らは大空を自由に舞い、音速を超える速度を誇る空の王者だった。
かたや人類は空を飛ぶ手段としての飛行機は手にしていたが、未だプロペラを回して飛ぶレシプロ機を飛ばすことしか出来ていなかった。
(現実で言うと1900年代前半。作中の文明レベルも概ねこれに符合する。)
しかしそんな世界において、音速を超える機体を作り、龍に打ち勝つ速度を手にせんと挑むべく新技術を生み出した連中が居た。
彼らの手にした力、それは・・・ジェットエンジン

というわけで、神秘の生物である龍に科学で挑む熱き熱き研究者達の汗と油くさい物語。
機械工学だの航空力学だのの話も絡み、なかなかに専門性のある内容です。


また、現実の1900年代前半も戦時下であったりそうでなかったりを繰り返していたように、作中もやはり飛行機は軍事力と密接する関係にあります。
本作では隣接する一国との戦争が休戦となって数年が経過した時点を基準に物語が始まりますが、いつ再戦の憂き目にあっても良いように軍事力の強化に余念がない。
そんな最中に新技術を搭載した飛行機を生み出すには軍政との関わりが代えるに代えられない。
ただ純粋に空を速く飛ぶ機体を作りたいだけなのに、そうできない現実とのジレンマが大きなテーマとなっています。


尚、主人公は作り手の方ではなく、危険極まりない試作機をものともせず乗りこなす天才的パイロットの方です。
彼にはかつての戦時中に負った暗く重い過去があり、ただ純粋に空を飛ぶ事だけを許されはしない環境に深い悲しみと憤りを抱き・・・といったような流れで物語が進行。
そのため、三章からなる本作のうち一章は過去の話です。
そうして彼の過去を掘り下げたところで次巻へ、という構成になっています。


ちなみに、男ばかりのむさ苦しい作品となっており、女性はただ一人のみ。
だからというわけでもありませんが、総じて、表紙イラストからも感ぜられる通りにかなり渋めの硬い作風。
流行りに乗らない直球勝負といった印象です。
と同時に、あまり長期にわたる作品にはなりそうにありません。
早ければ次巻で完結を迎えるのではないでしょうか。
太く短い作品を読みたい人には特におすすめ。