狼と香辛料 12

狼と香辛料〈12〉 (電撃文庫)

狼と香辛料〈12〉 (電撃文庫)

海を渡った先、ウィンフィール王国で羊の異形のもの──ハスキンズと出会ったロレンス達。
そこで聞く事のできた話を頼りにホロは次なる行動を起こし、ロレンスもまたそれに付き合い続ける。
終わりが来るとすれば、それは彼らが満足した時。
それまではきっと終わることのない旅路、第12巻。



さて、短編集を間にはさみ、10巻の内容を引き継いでの最新刊となります。
ヨイツは既に滅んでしまった。
それはもう今更何をしても覆ることはない。
かといって、そこで悲嘆にくれ全てを終わりにしてしまうのではなく、たとえ気休めや自己満足だとしても出来ることがあるはず、とホロは立ち止まりませんでした。
たとえ滅んでいてもこの目でいまの有様を見届けよう、と・・・。


今回はそういった流れから北の地方の地図が描けるという人物を頼り、地図を描いてもらうべくその人物のある目的のために協力するというお話。
ロレンス得意?の商取引が絡む要素は乏しく、割合と叙情的な物語になっています。
とりわけ終盤には合理性とは裏腹の関係にある感情論が優先されたりと、行商人としては失格なロレンスが見られますが、以前ならばそんな選択はしなかったであろうこういった変化がこれまでの旅の積み重ねを思わせ感慨深くもあります。


尚、渦中の人物となる今回のゲストキャラクターも奇しくも女性。
これがまた人気を博しそうな風体や雰囲気を持っており、魅力的な登場人物です。
出会ったばかりで関係の浅い当初は彼女の表層しか見えないのですが、後半になればその内面が見られるといった常道も外すことなく押さえてあります。
また一人魅力的なヒロインが誕生してしまった・・・。


また、彼女ほど重要な人物ではないものの羊の化身であり商会を営んでいるユーグも第一印象の悪さとは打って変わって良い味を出しています。
特にホロの心情や姿勢に与えた影響は少なくないようですね。


惜しむらくは、彼女を取り巻くエピソードを描くことが優先され、ロレンスとホロがただの脇役のようになってしまっている事でしょうか。
単体としては良い物語となっていましたが、シリーズを通しての目的や主題においてはあまり進展がみられませんでした。
ただ、今回得られた地図を元に次なる13巻では逆に大きな進展があるのでは、といった期待はもてると思います。
ここは布石のひとつとして捉えるべきかも知れません。
といったわけで、次もまた楽しみにしています。




余談ですが、比較的誤字脱字の少ない本作ながら今回は一箇所明らかな誤植がありました。
該当箇所は70頁。
ユーグとなるべきところがハスキンズとなっている後ろから二行目の箇所です。
これほど明らかなミスは珍しい気がしたので、ひとつ余談として。