とある飛空士への恋歌 3

とある飛空士への恋歌3 (ガガガ文庫)

とある飛空士への恋歌3 (ガガガ文庫)

所属不明機を撃墜してから4ヶ月余り。
いつ開戦されるとも知れぬ空の一族との戦いに不安を募らせながらもカルエルら訓練生は鍛錬に勤しんでいた。
そうして過ごした期間の内に親交は深まり、連帯感のようなものが確かに芽生え始めていた。
そしてまたある者は、互いに淡い恋心を抱くようになった。
だが、そんな彼らの日常は開戦の合図と共に無惨に引き裂かれ・・・。

慟哭が胸を穿つ風雲急の第3巻。


なんだか一気に随分陳腐化したなぁ、という印象を禁じ得なかった2巻。
2巻の印象がそんなものだっただけに、この3巻次第で続きを買うかここで切るか決断しよう!
内心でそう定めていた今回。
結果は既に方々で述べられている通り、この巻で持ち直した或いは化けたというのがふさわしいクオリティ。
諸々の積み重ねがようやく結実したようです。
ここまで読み続けてきて良かった。


というわけで、十分に満足の3巻ですが、もう少し詳細に中身について触れてみます。
まず冒頭にも記述したとおり、作中の時間では2巻の衝撃のラストから4ヶ月の期間が空いています。
あの一件を境にイスラは瞬く間に戦中へと放り込まれたのかと思いきやそうではなかったようです。
そして、そうではなかった代わりに前回に引き続き、これでもかとばかりに彼らの交流とおちゃらけた日常を描くパートが紙幅の半分ほどを占拠。
確かに後半の展開を考慮すれば、こういったたわいない風景も物語を構成する下地として必要不可欠なのは解ります。
解りますが、いかんせん物量にすぎる・・・。
2巻丸まる全部と3巻半分もの紙幅を費やされると、さすがに辟易とした思いが湧いてこなくもないです。
もう少し早く開戦にこぎつけて欲しかったかな、というのが率直な感想。


ただ、いざ開戦してからはめまぐるしく濃密な展開が約束されています。
何よりも前著『追憶』との違いとして大きいのは、空戦が「一対一あるいは一対多」ではない点。
多対多の戦争です。
必然的に主役以外の人物は、彼らに生き残ってもらうべく戦禍に散ることもあります。
ここからはいわゆる顔キャラがばんばん死にます。
彼らの死が主人公を生かし、遺された者としての責務を負わせ、成長の礎となるという構図。
益体もない言い方をすれば、登場人物を殺すことで感動を誘う作りです。
あらかじめ覚悟の上で読んだ方がいい。


で、そうして作られたストーリーに見事にやられてボロ泣きしながら読んでいるやつがいまここに居る、とそういうわけなのですが・・・。
終盤の“それ”はカルエルの過失による必然性を伴わない「無駄死に」の側面を内包していると同時に、彼を窮地においやった上でかの人物を颯爽と登場させるべく用意された場面であるとしか思えないため、どうしてもどこか釈然としないところが残るのですが、中盤の“あれ”は見事でした。
主役を生かすため、主役に何かを背負わせるためではない本当に必要な犠牲とでもいえば良いのか。
「どうせ顔キャラを殺すならこれぐらいやってくれないと納得できない」
そう言えるだけの話になっていました。
たとえそれがお涙頂戴のための犠牲だとしても・・・。
いや、本当に、まさかアイツでこんなに泣かされるとは思いもよらなかった。
自分もあの場に居合わせた名もない正規兵の一人になったような思いで胸いっぱいでしたね。
あのペアの雄姿はまぎれもない今回のハイライト。


尚、この巻をもってして存在をにおわせるだけだったレヴァーム皇国*1の名がついに堂々と出てきました。
イスラでも空族でもない第三勢力として突如戦線に乱入。
と同時に、よもやこちらの物語にまで出番があるとは夢にも思わなかったかの人物(と思しき・・・というかそうとしか考えられない人)も登場。
目指すべき理想の人としての雄姿をカルエルの胸に刻みつけていきます。
うーん、一体今後あの国がどういった形で関わる物語になるのか。
クロスオーバー企画としての興味も湧いてくる何とも盛りだくさんの3巻でした。
いまなら言える、本作もおすすめです。

*1:前作『とある飛空士への追憶』の主要舞台国です