風に乗りて歩むもの

風に乗りて歩むもの (ガガガ文庫)

風に乗りて歩むもの (ガガガ文庫)

元警官、現タクシードライバーのH・ボガード。
ある日彼は、旧知の地元警察の警部から少女の護送を依頼される。
少女の素性、行き先は言えないというふざけた要求であったが、ポンと支払われた報酬は目を見張る額。
どうやら訳ありらしい。
ひとまず依頼を受けて車を走らせるボギィだったのだが・・・。

売れ筋?そんなもん知ったことかよ!
著者のそんな矜持から生まれた異色作。


なにやら初老のおっさんがかっこいい作品だ、ということで買ってきた一作。
目に狂いはなかったです。当たりでした。
ライトノベルに馴染みがある人なら『奇跡の表現』『ドラグネット・ミラージュ』(コップクラフト)に当たらずも遠からずな作品と考えていただければしっくりくるかと。
そうではない人にはざっくりとですが、映画レオンを年の差カップルではなく親子愛に変じたものでもイメージしていただければ・・・。


というわけですが、本作の舞台はアメリカの端っこ、カナダとの国境沿いにある五大湖がひとつヒューロン湖が舞台。
その湖に浮かぶマニトウ島にある世界的テーマパークで妙な事件が起こり、現場に居合わせたのが護送対象となる少女グラニット。
しかし、事情聴取の終わった少女をただお家へ帰してあげるだけのはずだったボギィの仕事は、何者かの襲撃を皮切りに困難の様相を呈し始める。という物語。
初老のがさつなおっさんと育ちの良さそうな令嬢──但しツンケンした傲慢タイプのお嬢様でもなければ、殊更世間はずれな天然娘というわけでもなく、普通にしていれば本当にただの10歳そこそこの女の子──という親子以上に歳の離れた組み合わせが魅力的。


また、テーマパークで起きた事件の真相もさることながら彼女の素性に関しても「やんごとない」人物であることを除き不明なまま進行するストーリー。
二つの要素を備えたミステリーでもあります。
ただ、ミステリー部分の仕掛けや犯行動機などはそんなことがあるだろうか?とやや首をひねらなくもないところがあり、ミステリー慣れした人にはやや物足りないかも。


それよりもやはり本作は、段々と擬似親子的に関係を深めていく二人の物語として見てこそのもの。
初老のおっさんと少女。
この取り合わせにピンと来ただけで買いの一手に間違いなしです。