花守の竜の叙情詩

花守の竜の叙情詩 (富士見ファンタジア文庫)

花守の竜の叙情詩 (富士見ファンタジア文庫)

谷底に突き落として贄とするか、見捨てて逃げるか。
もはや行くも地獄、戻るも地獄。
これは、そんな運命の選択を余儀なくされたある青年の物語である。



はい、というわけで冒頭の紹介からしてのっぴきならぬ感じが伝わるかと思いますが、本作はなかなかにシビアな作品です。
以下、あらすじ。


亡国オクトスに伝わるひとつの伝説。
曰く、姫君を生贄として捧げることで願いを叶える竜が呼び出せるという。
オクトスを制圧した隣国エッセウーナの第二王子テオバルトは、第一王子の命によりかの竜を呼び出すべく旅に出させられる。
亡国より捕らえられた王家唯一の生き残り、王女エパティークを伴って・・・。


王位継承争いの只中にあって人の醜さを幾度も見てきたことで、心を閉ざした王子テオバルト。
他国との政略の道具となるべく、何も知らず何も成さず、ただただぬくぬくと育ってきた王女エパティーク。
支配する国の王族と支配される国の王族。
世間を知らず、真実も知らず、知ろうともしなかった愚かなお嬢様を睥睨するテオバルト。
彼の冷酷な言動、与えられた屈辱、待ち受ける死の運命、彼を呪い不遇を嘆くエパティーク。
互いを嫌悪し、相容れることなどないはずの二人。
だが、一人の人間が彼らを変える。
旅先で出会った小さな小さな少女エレン。
彼女との三人旅を通し、やがて二人は相手の内なる姿──本当の彼/彼女を知り、そして・・・。


とまあこんな感じでして、ここまで来て初めて冒頭の選択がテオバルトに重くのしかかることとなります。
エパティークを生贄として任務を果たすか、彼女と共に逃げ、国に残してきた最愛の妹を見捨てるか・・・という選択を。
ただ、最も盛り上がれたのはここまでだったかな、と思わなくもありません。
(以下、ネタバレを含む)


というのも、最終的にテオバルトには第三の選択肢という奇跡が与えられ、結局彼はどちらも選びません。
「そんなん選べるか、両方だ!」という反則技を使われたに等しく(ただしそれなりの代償は払っています)、最後の最後で非現実的な甘さが旅の帰結となってなっており、若干ご都合主義的な印象が拭えません。
「所詮銀竜など御伽噺にすぎず、悩み苦しんだ先にエパティーク(或いは妹ロザリー)を・・・」という話にはならないのです。

とはいえその分後味は悪くないものとなっているので、そのまま現実を押し通した先に待ち受けていたであろう悲劇と、はたしてどちらが物語のクライマックスとして良かったのかと考えると、うーん・・・難しいところですね。


一方、この半ばご都合的な展開の先には、結構意外な結末が待っています。
ウルトラCによって二者択一から両方とも取るという離れ業が可能になった──そこまでは良かったのですが・・・という驚きの展開。
これが俗に言うヤンデレか・・・と思いましたねぇ。
そういった意味では、途中でご都合展開になった割には大団円とはなっておらず、やはり最後までシビアな物語が貫き通されたと言えるかも。
いずれにしても読み応えがあり、とても楽しめた作品だったことは確かです。
ありきたりな作品に飽いた人には特にお奨めします。




余談。
この作品、意外なことに先月に続編が出ています。
決して続きがあり得ないような話ではありませんでしたが、かといって続きがあって然るべきかというとそうでもなく・・・。
このままこれで完結として胸に留めておくべきか、思い切って続きも読むべきか。
昨今のライトノベルは何でもシリーズ化して、その結果残念なことになっているものが少なくないだけに悩ましいところです。
評判は悪くないようなので、多分買うと思いますが・・・。