神さまのいない日曜日

神さまのいない日曜日 (富士見ファンタジア文庫)

神さまのいない日曜日 (富士見ファンタジア文庫)

第21回富士見ファンタジア大賞受賞作。
終わってしまった世界でただ一人、後ろを振り返るのではなく前を向く少女の物語。
(尚、『神様のいない日曜日』ではありません。システムによっては、それで検索しても本作はヒットしないので注意。)


ファンタジーですので、まずは世界観の説明から。
15年前、神がその責任を放棄し見捨てた世界。
新たな生が世に降りることはなく、死者が活動を止めることがない世界。
そんな絶望的な世界にもたらされた唯一の救い“墓守”
死ぬことのなくなった亡者は、かの者の手によって埋葬されることでようやく眠りにつくことができる。



そんな世界にあって今日も村で甲斐甲斐しく墓穴を掘る墓守の少女アイ。
優しい村人に囲まれ、楽しい日々を送っていた。
だが、ある日彼女だけを残し唐突に「村が終わった」
終わりをもたらしたのは、彼女がこれまで目にした事がないほど美しい人。
それもそのはず、なぜなら彼は・・・いや、彼女がそれまでに目にしていた人たちは──


さて、村を襲った人物とアイ。
本作は主にこの二人だけで送られる物語です。
安らかな死を望む者と、それをもたらすことのできる者。
両者が出会えば別れは必然となり・・・。
最後にはしんみりと物悲しい余韻が残る。
誰もが終わり(=死)を望む世界にあって、終わらせないことを目指すアイがまぶしい。


ただ、テーマの重さの割に文章はおしなべてノリが軽めです。
肝心のところでこそ控え気味ではありますが、どうしても軽薄な感じがしてしまい、そこが残念なところ。
しかしその反面、鬱々とした世界を感じさせるような暗さや重苦しさがなく、テーマの重さの割に読みやすいという側面もあり、悪いことばかりではない。
否応にも気分が沈みがちになる世界を描きながらも、明るく前向きな調子を楽しむことができる不思議な作品。
とても巧妙!というほどのものではありませんが、伏線を紐解いていく仕組みも盛り込まれています。


尚、よほど売れない限りは続編が出るらしいのですが、どう考えても読み切り完結向きの作品です。
近年、どのレーベルもこれまで以上に何でもシリーズ化する傾向にあるのはいかがなものでしょうか。