空の彼方

空の彼方 (メディアワークス文庫)

空の彼方 (メディアワークス文庫)

路地裏にひっそりと店を構える防具屋「シャイニーテラス」
二代目の若き主人ソラが一人で切り盛りするその店には一風変わった三つの決まりが設けられていた。
それ故に手広い経営には程遠く、訪れる者は自然と顔馴染みの常連ばかりであるのだが──。

独特の着眼点で描かれる一級品の中世風ファンタジー


少し遅くなりましたが、一月のMW文庫で一番・・・というか唯一楽しみだった一作を読み終えました。
読み始めさえすればあっというま。
期待以上の作品です。
俄然オススメ、久しぶりにガッツリきました。


さて、冒頭にも書きましたが、本作はファンタジーといえど多くの作品とは少しばかり趣が異なります。
まず、物語の中心に描かれる人物は店から一歩も動きません。
その代わりに、店を贔屓としている客たちが様々な話を持ち寄ってくるという図式。
一冊の中に、都合三人の顧客による七つの話が盛り込まれている。


そして武器屋でも鍛冶屋でもなく、ファンタジーや冒険の世界では存在が軽視されがちな「防具」に意味を込め、思いを託した防具屋のストーリーが本作のメイン。
五年も昔の出来事にいまも捕らわれ抜け出せずに居る店の主が、お客達が目にし耳にし肌に感じてきた物語を伝え聞くことでひとつの区切りを迎える最終章にはこの作品のすべてが詰まっていたように思えます。
この奪うでも倒すでもなくただ「無事に帰ってくること」のみを重んじる特有の雰囲気がものすごくたまらない。
読後感も稀に見る清々しさを伴い、最高です。
「青く晴れ渡る空」が本作の芯としてあるのですが、読後の心にもそれに等しいものが残ります。


このところライトノベルには当初から長期シリーズ前提であるか、明らかな読み切り作品が版元の意向で無理にシリーズ化されるといったあまり歓迎できない傾向がありますが、この作品は久しくなかった「読み切りだけど続きが読みたい」と心底思える作品。

元書店員という売る側の立場からすると、出版社はそういった方針を取らざるを得ないのだ、ということに理解は示せるのですが・・・。
というか、それ以前にMW文庫はアスキーメディアワークス的にはライトノベルではないのですが・・・。

酒場のマスターにお客が身の上話などをするというような形式でもあるため、続編自体は書こうと思えばいくらでも書けそうですが、さて・・・。
いずれにしても、まずはこの一冊をお楽しみ下さい。