〜覚醒遺伝子〜空を継ぐもの

空を継ぐもの―覚醒遺伝子 (電撃文庫)

空を継ぐもの―覚醒遺伝子 (電撃文庫)

ここしばらく新作(受賞作を除く)に食指が動かずことごとくスルーしてきた電撃文庫において、久しぶりに興味の湧いた一作。
とか何とかいう個人的な事情はさておき、科学と幻想が交差する不思議な物語、第1巻。


ある日唐突に眠りにつき、半年以内に死を迎えるという奇病──眠り病
原因不明、治療不可。
一度発症したら二度と目覚めぬという難病として、徐々に世間を脅かしていた。
しかしある時、生まれた直後に発症したまま10年も生き続けている特例患者が、奇跡の覚醒を果たした。
さて、冒頭に第1巻と書いたとおり本作には続刊があります。
予定ではあるものの既に発売日も今年7月であると、公式にアナウンスされています。
が、その割には1巻が詰め込みすぎで、焦って一冊にまとめたような印象を覚える。
というのも、中盤まではゆっくりじっくり地に足つけてストーリーが展開するのに対し、終盤は細かな描写や個々の出来事をすべてすっぽ抜かし、3年後→7年後というペースで一気に物事が進展するため。
1巻の売れ行き次第で2巻も・・・といった作品であればどんな形であれひとまず1巻で区切りをつけ、ひとつの作品としてまとめることも必要だったと思われるが、刊行当初から続刊の決まっている作品ならば、下手に一度物語を閉じようとするよりも「See you next week」的な形でのブツ切りも辞さずに、ストーリーと構成にこだわるべきだったのではないかな。


それと、もうひとつ。
本作は原因不明の奇病「眠り病」の原因及びその治療と根絶というテーマを根幹に物語が形成されているが、遺伝子が云々骨格がどうのうといった科学の方面からストーリーが展開されたと思えば、古代に現存したとされる有翼人種が・・・であるとか、共鳴を起こして・・・、夢で語りかけてきて・・・といったファンタジーな要素が唐突に飛び込んできたりといった塩梅に、テーマへのアプローチがハッキリしません。
良く言えば科学と幻想のハイブリッド。
悪く言えばどっち付かずで中途半端。
また、「生まれてからずっと眠ったまま」「7年間眠りっぱなしだった」
こういった人が、覚醒した場合、肉体の方は相当衰弱し切って大変なことになっているのが普通だが、昨日寝て今日起きたかのような健康体であったりもする。
理詰めのリアリティある作品なのか、こまけぇこたぁいいんだよのファンタジーなのか少し戸惑いを覚えた。


というわけで、しょっぱなから粗を突くことばかり書いたけれど、本質的には結構好きな作品で、続きも読みたいと思う。
まず、内容的にはコメディや萌えの要素は欠片もなく、とにかくシリアスで堅い落ち着いた雰囲気で安定している。
それが結構好印象。
まあ、流行りの作風とは逆行してるので、あまり評価はされないかも知れないが・・・。
そして眠り病へのアプローチも、本作はこまけぇ(ryのファンタジー作品なのだという観点から見れば、徐々に因果の繋がっていく過程が面白い。
どことなく既存の作品を彷彿とさせる側面もあるにはある作品なのだが、(恐らく2巻で完結しそうなので)2巻でどういったまとめかたをしてくるのか楽しみだ。