ヴィークルエンド

ヴィークルエンド (電撃文庫)

ヴィークルエンド (電撃文庫)

今月はガガガも何も興味を惹かれるタイトルがなく、あまりにも寂しいので適当に少しでも興味が湧いたものを選んで買ってきた一作。
この選択が良かった・・・。
あらすじなど公式の紹介文から想像していたものとは大いに異なり、しかし大満足のできた一作。
これが初うえお作品だが、こんな文章書ける人なら他の作品も読んでおくべきか。

世界中である時期を境に新生児が、とある症状を抱えて生まれてくるようになった世界。
彼らは感情の抑制あるいは逆に発現に欠陥を抱え、サプリに頼ることで“常人”足り得る存在だった。
そうした最中にあって、大人の“管理”網をくぐり合成したサプリを摂取することである種の特殊な感覚を呼び起こし、速さを競う遊戯に身を投じる者たちが居た。

というSFな世界を舞台に一人の少年が自己を模索し、一皮向けるまでの過程を描いた力作。
 新世代の子供だけがもつ特殊な力
ときくと、とかくその力で何か大きなことを成し遂げるであるとか、逆に力を悪用する者が居て、そういった連中に完全と立ち向かう主人公が居て・・・という話を想像しがちだが、本作はそういった趣旨の作品ではない。


むしろ設定の割に風呂敷を広げようとはせず、主人公という一人の人物をどこまでも深く掘り下げることに特化し、一点集中で最後まで突き通している。
そのせいかストーリーが散漫になることがなく、非常に読み応えがある。
本自体の厚さも平均より少し厚めだが、それとは関係なしに久しぶりにずっしり満足感のあるものを読んだ思いでいっぱいだ。


また、稀に「こんなのはただの絵のない漫画じゃないか・・・」とすら思えるようなものがあるライトノベルだが、そういったものとは対照的に文章が面白い。
傍から或いは“大人”から見たらどうして「そんなこと」に一所懸命に、それこそ文字通り命を懸けてまで臨もうとするのか。
ともすると本人もその「何故?」の問いには答えられないながらも成し遂げたいことはハッキリしているという若者特有?の衝動。
そういった動機は不明瞭だが目的意識は明確な青少年の物語が巧く描かれている。
これが小気味よい。


加えて言えば、主人公の彼を筆頭に登場人物の個がしっかりと確立しているのも良い。
これは単に、現実世界に照らし合わせると変人にすぎないような変わり者を個性的という言葉に置き換えて人物に当てはめたようなありがちな個性表現ではなく、そこに本当にそういう人が居ると思わせるような生きた人間が作中で動いているという意味である。
ともすれば話の良し悪しよりもこの点に一番好感を覚えたかも知れない。
冒頭にも書いたが、こういった人物描写ができる作家さんならば他の作品も読んでみたい。
電撃文庫を指してこういうのもなんだが、ガガガ文庫的なものが好きな人には特にお奨め。

ガガガ的と言われても抽象的すぎて良く分からないと思われる人がほとんどだと考えられるが、分かる人には分かるかと思う。

尚、1巻限りの完結作品であり、続編はない。


しかしそれにしても、ことさら服を脱がせようとする作品であった。
なぜそこまでして全裸にしようとする。
全裸に始まり全裸に終わるとか、どんな作品か(笑)。