[小説] テルミー きみがやろうとしている事は

テルミー きみがやろうとしている事は (スーパーダッシュ文庫)

テルミー きみがやろうとしている事は (スーパーダッシュ文庫)

SD文庫ということもあってあまり大きく注目を集めてはいないが、感動に値するすばらしい作品がある。
そういった評判を聞き及んでひと月遅れで買ってきた先月のSD文庫の新作。
これは、最期の「さようなら」を描いた物語。


前著が一作あるもののほぼ無名・無実績の作家さんということで、本著は同レーベルのアサウラさんからの推薦文が帯に載っている。
そこには、こうある。
「いつもラブコメ作品ばかり読んでいる人にこそ、本作のような作品を読んでいただきたい。
(中略)
 ともかく、『ライトノベル=ラブコメ』だと思われがちですが、本来は何でもアリなのがライトノベルというものです。
本作をお読みになり、それを今一度感じてみてはいかがでしょうか。」
確かにラノベにはラブコメ(と学園異能。あるいは両方に該当するもの)があまりにも溢れ返っている。
アニメ化の流れが隆盛を極める今、その傾向はより顕著になってきたように思う。
そんないまだからこそ、ジャンルを問わずこういった作品も生まれることの意味を尊重したい。


さて、脱線した話を戻して本作の内容を紹介。
不幸な事故により、修学旅行の最中にひとクラスの生徒が一度にこの世を去った。
ただ一人、鬼塚輝美を除いて・・・。
そして、生き残った彼女には二十四人分の魂が憑依した。
彼女は、彼らの「最期の願い」をかなえることを決意する。


といった具合に、本作は悲劇から始まる物語。
言ってみれば魂の救済を描く物語となるのだが、やさしい話であると同時に、やさしいだけではない現実の残酷さも兼ね備えている。
「死んだ人間が誰かの体に残り、まだこの世にある。」
本来ならあり得ないこの奇跡を目の当たりにすれば、遺された人の中から「願いをかなえて成仏せずに、このまま現世に留まってくれないか」といった望みを抱く者が現れるのは不可避なことで・・・といった塩梅だ。


しかし、彼らは既に亡くなっている。
輝美の体を借りて生きているのではない。
どうして死んでしまったのかをいくら問うても死者は甦りなどしない。
それでも心残りを晴らす機会を与えられた。
では、遺された人はどうするべきか。
これが本作のテーマと言って良い。


尚、一応は完結作と見て良いのだと思うが、二十四人の願いのうち作中でかなえられた願いは五人分だけ。
残りの願い、そしてすべてを成し遂げた後の輝美がどうなったかは描かれていない。
しかし、描くべき物語を絞り込んだことで逆にとても手に取りやすいボリュームとなっている。
文章自体の読みやすさも相まって、あっという間に一冊読み終えることができると思う。
価格も決して高くないので、是非手にとって見て欲しい一作だ。