花咲けるエリアルフォース

花咲けるエリアルフォース (ガガガ文庫)

花咲けるエリアルフォース (ガガガ文庫)

二年前のあの日、日本列島を東西に二分して戦争が始まった。
以来、じりじりと戦線を後退させる皇国軍と共にぼくの生活圏は東へ東へと転々としていった。
そしてもう東京も目と鼻の先となった神奈川まで来たある日、一人の少女がぼくの前に舞い降りた。
およそそれが空を飛ぶとは思えぬ奇妙な機体から降り立った彼女は、皇国軍への召集令状を突きつけ、ぼくへ「共に来い」と言った。
そう、あれは紛れもない戦闘機で、ぼくはあれに乗っていつ終わるとも知れないあの泥沼の戦場へ飛び立つことになったんだ・・・。


電撃文庫を主戦場に、いくつもの作品を世に出し一定の評価を得ている杉井さん史上初となるガガガ文庫作品。
本作が何故電撃から出なかったのか、それは読んでみれば納得できる・・・かも知れない。


さて、冒頭にも書いた通り本作は、旧来のテクノロジーの一切を無視した異質な戦闘機“桜花”のパイロットとして認められてしまった少年を主人公に始まる物語である。
舞台は日本。
皇族を柱に軍国主義を掲げる東部勢力───皇国軍と、民主主義を唱える西部勢力───民国軍がついに諸外国の支援を背景に開戦してしまうところから物語は始まる。
そして、主人公は劣勢を強いられている皇国側の首都防衛の要たるわずか四機しか稼動していない最終兵器のパイロットとなり、齢十四の身にして戦場へ駆り出されるというもの。
作品の性質としてはボーイミーツガールを前面に出しつつ、戦場の悲哀をつづる物悲しいものとなっている。
主人公も選ばれた身でありながらいわゆる「俺つえぇぇぇ」といった無双をすることも一切なく(むしろ“桜花”乗りの中ではもっとも新参者なので足手まとい気味)、かといって何かを達観して戦争の虚しさを説き始めるでもないため当たり障りのない人物であるように思える。


反面、やや消極的な面が色濃い人物でもあり、「いまここでおまえが動かなきゃ誰がやるんだ!」と思える場面でも尻込みし、ぐずぐずしてなかなか動き出さない点に歯がゆさを覚える。
これはヒロインを含む周囲の人との人間関係の構築においても該当する側面があり、そのせいもあってかボーイミーツガール作品でありながらも主人公とヒロインの関係はそれほど進展せず、露骨にイチャコラし始めることはない。
この点については、昨今のライトノベルで主流となっている主人公の男女関係やヒロインとのやり取りに食傷気味な人にとってはプラス要素と言えるかも知れない。
(逆にそういった要素を求める場合はマイナスなのだが・・・。)


また、肝心のそのヒロインは大別すると定番のツンデレに属するが、どちらかと言えば「堅物」といった方がふさわしい人物。
そして、主人公とも適度な距離を保ち、異性としてよりも数少ない桜花乗り・・・すなわち「かけがえのない仲間」としての認識を深めていく過程が描かれるため、読む人を選ばずに好感の持てる女の子となっている。


物語はあくまでも戦場に立つ主人公らの感傷などを中心に描かれている。
そして物語の結末は万事に決着がつく形ではなく、また大団円的なハッピーエンドとは言い難い点も補足しておきたい。
悲しみの曇天の中にただひとすじ、心を洗う晴れ間が差し込むようなそんなラストである。


尚、続編に関しての情報は出ていない。
本作では都合四機出てくる“桜花”も設定上は九機存在していること(残る五機は適合者が見つかっていない)。
結末の段階で休戦も終戦もしていないこと。
これらを踏まえると、著者及び編集さえその気になれば続けることは不可能ではないといった状態だ。
個人的には、読後にはもう少し彼らの物語を見守ってみたい気持ちに駆られるだけのクオリティのある作品だったので、続編があるならば歓迎したい。


あ、ちなみに民国側(関西が中心)を敵軍、皇国側(関東が中心)を友軍としており、しかも西側の描写は一切ないです。
ローカリズムの強い人にとってはやや不快感を覚える設定と言えなくもないので、ご注意を。