東雲侑子は短編小説をあいしている

東雲侑子は短編小説をあいしている (ファミ通文庫)

東雲侑子は短編小説をあいしている (ファミ通文庫)

ファミ通文庫からは実に4年ぶり。
他社を加味しても久しぶりとなる森橋ビンゴさんの新作。
そして本作は(個人的にそう思っている)森橋さんがもっとも得意とするジャンル、青春小説である。


無気力に日々を過ごしていく高校生───三並英太。
彼の学校は、生徒は必ず何がしかの部活動か委員会に参加しなくてならないという決まりがあった。
そこで彼は、もっとも楽そうだからという理由で図書委員となった。
そして、共に委員を務めるクラスの女子───東雲侑子に自分と似た何かを感じ取り、ひそかに勝手な共感を寄せたのだが・・・。


さて、ほろ苦く甘酸っぱい青春モノにかけては定評のある森橋さん。
今回も例に漏れず、年頃の男子が抱いた恋愛感情を見事に描いている。

はじめはなんということはない関係だった。
しかしやがて、自分が相手に好意を抱きつつあることを自覚する。
けれど他人の考えや想いはようとして知れない。
そうであるがゆえに、ひとりで苛立ち、焦り、不安に駆られたりするのだが、それは誰しも同じこと。
実は相手も同じような想いをしていたとしたら───。

というのが本作の主旨である。
この言い知れぬもどかしさの表現が絶妙だ。
実に初々しくもあり、たまらない愛おしさがある。
(ただまあ、既におっさん予備軍となっている者が抱いた感想なので、同年代であり今まさにそうなっている少年少女が読むとどう映るのかはわからないが・・・)
妙な設定や変化球に頼らないストレートな作風も好印象。
また、シリーズ化される気配などは微塵もないので、気軽に手に取ってみて欲しい。


尚、英太が恋心を自覚するのは物語も後半に差し掛かってきてからである。
序盤から早々とフォーリンラブする作風に慣れた人には少しじれったいかも知れないが、そこはご容赦。
本人より先に読者が気付き、やきもきするのもまたひとつの楽しみなのだ。